2年後、ふれあい児童養護施設。私が児童養護施設に入所して2年という月日が流れた。そして、今日私は18歳になる。律さんと結婚を約束した年、そしてここの児童養護施設を退所する年。でも、すぐ退所するわけじゃない。翌年の3月末に退所になる。今は、共用スペースの真ん中のテーブルにケーキが用意されていて、1と8のロウソクがささっていた。火は小さな子どももいるから危険ということで火に見立てたライトを使用した。5歳から12歳の子どもたちが、元気な声でバースデーソングを歌ってくれる。この時は、みんな私のことを『雫』と呼んでいた。私は消えるはずのない火に見立てたライトに息を吹きかけると、その火に見立てたライトの明かりが消えた。施設の職員が遠隔操作してたみたい。その後は、子どもたちとケーキを食べたりプレゼントを貰ったりした。あの、みにくいアヒルのこの絵本を持ってきた女の子は、今8歳で私に手作りの絵本をプレゼントしてくれた。表紙には『シンデレラ』と書いてあった。
「雫姉ちゃんをモデルにして書いた!」
と教えてくれた。どんなお話かあとで読んでみようと思う。
翌年、3月中旬の初め頃。私が18歳になり、退所の日も近付いている頃、律さんが手紙をくれた。さっきの面談で
「これ、雫に渡す最後の手紙……」
と言ってたから。律さんも2年前と比べたら、見た目にも気を遣うようになって、オシャレし出している。高校の校則を守りながらの。手紙の内容は、次の通りだった。
『雫へ
いよいよ、一週間後にはここを出て、俺と一緒に暮らすんだね。なんだか、まだ信じられない気持ちだ。
最初は、俺のYシャツ一枚で震えていた雫が、自分の力で一歩を踏み出している。その話を聞いて、俺は本当に嬉しかった。
あの夏の昼下がり、俺が雫にYシャツを渡したのは、ただ雫が一人でいるのを見過ごせなかったからだ。でも、雫はあのYシャツを、俺との「希望の証」にしてくれた。
今度は、俺たちが二人で、新しい「希望の形」を作っていく番だ。
俺の家は、相変わらず散らかっているかもしれないし、豪華なご飯も作れないかもしれないけど、雫が「安心できる場所」にしてみせる。
だから、安心して、俺のもとに来てほしい。ずっと、ここで待っているよ。
律より』
相変わらず、綺麗とは言えない字体だけど読めないぐらいの字体でもない。時間かけて書いてくれたんだと分かる。私はその手紙を横に置き『律さんへの最後の返事』を書く。次に律さんと会うのは、出所する3日前。
3月下旬、末日の3日前。面談室。
「何時に退所するの?」
「真昼間の時間帯かな?」
「俺、学校にいる時間じゃん……」
律さんが退所する時間を聞いた。早く一緒に暮らしたいって期待の気持ちが口調で分かる。
「律さんが帰ってくるまで、部屋に入れないのは……ちょっとマズいよ」
「俺、こんなこともあろうかと……《《合鍵》》作ってあるから!」
律さんが実物を見せる。キーカバーで部屋番号を隠してある合鍵だった。
「今渡したら無くしそうだから、退所する日に郵便受けに入れておく……」
律さんは合鍵をポケットにしまった。
「あ! あと、これ……」
私は返事を書いた手紙を差し出す。
「家に帰って読ませてもらうよ……」
律さんは手紙を受け取って、カバンにしまう。今日の面談はこれで終了した。
退所当日。私は入所した時と同様、男物の白い長袖Yシャツを着た。送迎車に乗ってひだまり荘の律さんの部屋に帰る。退所する時、施設内の職員と子どもたちが総出で出迎えてくれた。私に懐いていた児童たちは泣いていた。もう会えないと思っているのだろうか。私は複数の職員に囲まれて送迎車に乗って、本来の場所へ帰る。律さんの部屋に。
ひだまり荘、郵便受け前。
「雫さん、これからもお幸せにね!」
児玉さんと3人の女性職員が手を振って、送迎車はUターンして走り去った。私は荷物のキャリーケースを引いて、郵便受けの中から律さんの苗字である『桜井』を探す。
「桜井……桜井……あった!」
私は桜井と書かれた郵便受けを開いて合鍵を取り出す。そして、階段を登っていく。石階段はまだ冷たい。3月下旬だからまだ春ではないんだ。私は桜井の表札を見つけて、合鍵を鍵穴に挿す。そして左方向に回すと
――ガチャ!
と。音がした。ドアが開いたんだ。私がドアを開ける。部屋は薄暗かった。微かにカーテンから照り付ける太陽の光が漏れ出ている。私はキャリーケースを置いて、カーテンを開けた。ダイニングテーブルに目をやると、雑巾が畳まれていた。
「しまい忘れたのかな?」
私が手に持つとその畳まれた雑巾は広がり、可愛いフリルのついた白いエプロンに変わった。
「え⁉︎ エプロン!」
私はびっくりした。だってデザインからして律さんが着るには可愛すぎるから。もしかして、律さんは私にプレゼントを密かに買っておいたのかもしれない。私はユニットバスの洗面台に立ってYシャツの上からエプロンを着る。なんか、とても不恰好だった。カウンセリングで服への抵抗感はかなり減ったから、いろんな服を着てみたいと思った。その最初がエプロンだった。
「Yシャツにエプロンじゃ……不恰好か……」
私は、一回エプロンを脱いで、Yシャツも脱いで、エプロンのみを身につけた。さっきの服装よりは、マシになった。
「律さん……ビックリするかも?」
私はクスクス笑った。私は脱いだYシャツを洗濯機にかけて、ユニットバスを出る。そして、ダイニングに立って食器洗いなどをした。私がいなかった2年間の中で衣食住はしてたけど、洗い物とかは怠っていた。
「今日は……カレーでも作ろうかな?」
私は律さんの冷蔵庫の中を漁った。私はフリルのついたエプロンを、素肌に身につけた姿で律さんの帰りを待った。
数時間後。
ーーガチャ!
ドアを開ける音がした。帰ってきたんだ。ドアが開いて
「ただいま……」
無愛想な声だが、2年前より少し低い気がする。
「お、おかえり……」
震えた声だった。2年という時を経て律さんに挨拶したから。すると、
――ダッダッダッダ!
音を立てて走ってくる足音が聞こえてくる。律さんが私の声に反応したんだ。律さんが目を光らせるように私を見つめた。すると、その駆けつけた状態で倒れてしまった。
「り、律さん!」
私は突然何が起こったのか、分からなかった。律さんの頬を触ると、熱かった。脳がたくさんの情報を処理しようとしたらショートしてしまったんだ。私は、律さんの頭をソファの枕に乗せて、夕飯作りを再開した。
「雫姉ちゃんをモデルにして書いた!」
と教えてくれた。どんなお話かあとで読んでみようと思う。
翌年、3月中旬の初め頃。私が18歳になり、退所の日も近付いている頃、律さんが手紙をくれた。さっきの面談で
「これ、雫に渡す最後の手紙……」
と言ってたから。律さんも2年前と比べたら、見た目にも気を遣うようになって、オシャレし出している。高校の校則を守りながらの。手紙の内容は、次の通りだった。
『雫へ
いよいよ、一週間後にはここを出て、俺と一緒に暮らすんだね。なんだか、まだ信じられない気持ちだ。
最初は、俺のYシャツ一枚で震えていた雫が、自分の力で一歩を踏み出している。その話を聞いて、俺は本当に嬉しかった。
あの夏の昼下がり、俺が雫にYシャツを渡したのは、ただ雫が一人でいるのを見過ごせなかったからだ。でも、雫はあのYシャツを、俺との「希望の証」にしてくれた。
今度は、俺たちが二人で、新しい「希望の形」を作っていく番だ。
俺の家は、相変わらず散らかっているかもしれないし、豪華なご飯も作れないかもしれないけど、雫が「安心できる場所」にしてみせる。
だから、安心して、俺のもとに来てほしい。ずっと、ここで待っているよ。
律より』
相変わらず、綺麗とは言えない字体だけど読めないぐらいの字体でもない。時間かけて書いてくれたんだと分かる。私はその手紙を横に置き『律さんへの最後の返事』を書く。次に律さんと会うのは、出所する3日前。
3月下旬、末日の3日前。面談室。
「何時に退所するの?」
「真昼間の時間帯かな?」
「俺、学校にいる時間じゃん……」
律さんが退所する時間を聞いた。早く一緒に暮らしたいって期待の気持ちが口調で分かる。
「律さんが帰ってくるまで、部屋に入れないのは……ちょっとマズいよ」
「俺、こんなこともあろうかと……《《合鍵》》作ってあるから!」
律さんが実物を見せる。キーカバーで部屋番号を隠してある合鍵だった。
「今渡したら無くしそうだから、退所する日に郵便受けに入れておく……」
律さんは合鍵をポケットにしまった。
「あ! あと、これ……」
私は返事を書いた手紙を差し出す。
「家に帰って読ませてもらうよ……」
律さんは手紙を受け取って、カバンにしまう。今日の面談はこれで終了した。
退所当日。私は入所した時と同様、男物の白い長袖Yシャツを着た。送迎車に乗ってひだまり荘の律さんの部屋に帰る。退所する時、施設内の職員と子どもたちが総出で出迎えてくれた。私に懐いていた児童たちは泣いていた。もう会えないと思っているのだろうか。私は複数の職員に囲まれて送迎車に乗って、本来の場所へ帰る。律さんの部屋に。
ひだまり荘、郵便受け前。
「雫さん、これからもお幸せにね!」
児玉さんと3人の女性職員が手を振って、送迎車はUターンして走り去った。私は荷物のキャリーケースを引いて、郵便受けの中から律さんの苗字である『桜井』を探す。
「桜井……桜井……あった!」
私は桜井と書かれた郵便受けを開いて合鍵を取り出す。そして、階段を登っていく。石階段はまだ冷たい。3月下旬だからまだ春ではないんだ。私は桜井の表札を見つけて、合鍵を鍵穴に挿す。そして左方向に回すと
――ガチャ!
と。音がした。ドアが開いたんだ。私がドアを開ける。部屋は薄暗かった。微かにカーテンから照り付ける太陽の光が漏れ出ている。私はキャリーケースを置いて、カーテンを開けた。ダイニングテーブルに目をやると、雑巾が畳まれていた。
「しまい忘れたのかな?」
私が手に持つとその畳まれた雑巾は広がり、可愛いフリルのついた白いエプロンに変わった。
「え⁉︎ エプロン!」
私はびっくりした。だってデザインからして律さんが着るには可愛すぎるから。もしかして、律さんは私にプレゼントを密かに買っておいたのかもしれない。私はユニットバスの洗面台に立ってYシャツの上からエプロンを着る。なんか、とても不恰好だった。カウンセリングで服への抵抗感はかなり減ったから、いろんな服を着てみたいと思った。その最初がエプロンだった。
「Yシャツにエプロンじゃ……不恰好か……」
私は、一回エプロンを脱いで、Yシャツも脱いで、エプロンのみを身につけた。さっきの服装よりは、マシになった。
「律さん……ビックリするかも?」
私はクスクス笑った。私は脱いだYシャツを洗濯機にかけて、ユニットバスを出る。そして、ダイニングに立って食器洗いなどをした。私がいなかった2年間の中で衣食住はしてたけど、洗い物とかは怠っていた。
「今日は……カレーでも作ろうかな?」
私は律さんの冷蔵庫の中を漁った。私はフリルのついたエプロンを、素肌に身につけた姿で律さんの帰りを待った。
数時間後。
ーーガチャ!
ドアを開ける音がした。帰ってきたんだ。ドアが開いて
「ただいま……」
無愛想な声だが、2年前より少し低い気がする。
「お、おかえり……」
震えた声だった。2年という時を経て律さんに挨拶したから。すると、
――ダッダッダッダ!
音を立てて走ってくる足音が聞こえてくる。律さんが私の声に反応したんだ。律さんが目を光らせるように私を見つめた。すると、その駆けつけた状態で倒れてしまった。
「り、律さん!」
私は突然何が起こったのか、分からなかった。律さんの頬を触ると、熱かった。脳がたくさんの情報を処理しようとしたらショートしてしまったんだ。私は、律さんの頭をソファの枕に乗せて、夕飯作りを再開した。
