ふれあい児童養護室、面談室。私は律に提案してみた。
「律さん……」
いざ、言おうとすると、言葉が詰まる。
「どしたの?」
律さんが袖を捲った長袖のYシャツを直す。
「最後に交わした会話……覚えている?」
私は必死に言葉を出したのが、それだった。
「自分で言ったことだし、覚えているよ……ちゃんと実行に移していると思うけど?」
律さんは、そう答える。
「もう1回、言ってもらえる?」
私があの時の事をもう1回言ってほしいとお願いすると、
「俺は、雫がそこにいても、ずっと会いにいく……手紙も書くし、面談の許可が下りれば、必ず会いに行く……週に数回は、顔を見に行くよ」
抑揚はないものの、律さんは答えてくれた。
「手紙はいつ書いてくれる?」
私が聞くと、
「実は……雫が児童養護施設に入ってから1週間後を想定して書いた手紙が今、部屋にある……郵便局経由で送ろうと思っている……」
律さんはもう、手紙を書いていた。
「律さん……それ、次の面会の時持ってきてくれない? 直接渡してほしい」
私がお願いすると、
「……分かった! 明々後日の面談の時に持ってくる」
律さんはそのお願いを言葉が一瞬どもったけど聞き入れてくれた。私は律さんとの面談を終えたあと、児童たちの宿題を手伝った。
3日後、面談室。律さんが洋形封筒を私に渡す。真ん中に『月島雫様』と書いてある。私は受け取り、
「読んでいい?」
私が聞くと
「ちょっと恥ずかしいから、部屋に帰ってから読んでほしいな……」
律さんは顔を赤らめている。
「書いている時も、顔赤らめていたの?」
「いや……あの時、心に穴が空いていたような気持ちだったから……読みにくかったらすまない……」
律さんは、下を向いて私に目線を向けなかった。
「あと、電話もして欲しいな……」
「え? でも、雫……自分のスマホ持ってないだろ? あと、自身の電話番号も……」
「児童養護施設の固定電話にかけて……職員が教えてくれるよ……」
律さんが電話もして欲しいとお願いした。
「分かった……あとで職員に聞いてみる」
面談後、個室。私は洋形封筒を開いて、律さんが5週間ぐらい前に書いた手紙を読んでみた。
『児童養護施設に入所して、もう一週間が経ったね。
初めて会った日から、ずっとYシャツを着ていてくれてありがとう。あれは、俺が雫にあげた、初めての服だから。雫がそれを着ていてくれるだけで、俺はなんだか安心するんだ。
児童養護施設での生活は、慣れないことばかりで、辛いこともたくさんあると思う。でも、ここには、雫を助けたいと思ってくれる人がたくさんいる。
俺は、雫に何かしてあげられるわけじゃないけど、いつでも雫のことを考えているよ。
だから、もし、辛いことがあったら、空を見上げてみて。俺も同じ空を見て、雫が少しでも笑えるようにって、願っているから。
また、手紙を書くね。
律より』
私はその手紙を読むと、自然と涙が溢れた。あまり綺麗な字じゃないけど読めない字じゃない。どれだけの気持ちがこもっているのかよく分かる。私は少し勇気がわいた。これなら、色付きのYシャツも着れるかもしれない。私はハンガーにかけてある青のチェック柄の長袖Yシャツを見つめる。
「あと、もうちょっと勇気を与えて……」
私は色付きのYシャツの裾を掴む。
翌日、昼頃。
「雫さん? 律さんから電話が来てますよ?」
児玉さんが教えてくれた。私は固定電話の受話器を手に取って律と日常会話をした。児童養護施設に併設されている保育施設の子どもたちと仲良くなった話、絵本を読み聞かせた話、夕方には小学生の宿題を教えている話など。
「次の面談の日に返事の手紙書くからね!」
『分かった……楽しみに待っている』
私は受話器を置いた。私は一旦部屋に戻って学習用のタブレットを手に取る。そして、固定電話に戻ってタブレットに最初から入っている録音のアプリケーションを開いて、さっきの通話内容を録音した。受話器の下部分をタブレットのスピーカーに近づけて。私はここの児童養護施設の固定電話の仕組みを知っていた。職員たちがすぐに対応できるように、固定電話は自動で録音機能が付いていることに。留守電などで確認を取るための機能。特定のボタンを押せば再生できる。私はそれを知って、律さんとの通話記録をタブレットに録音して固定電話の記録から消して、個室で聞くという手はずを組んでいた。これなら、律さんの手紙がそばにあってくれること、律さんの声が聞けることで、私は少しずつ勇気をもらっていった。
面談日。私は洋形封筒を手作りして律さんに渡した。
「俺の封筒使い回していいのに……」
「いや……あの封筒は私のものだから律さんに返さない……」
私は少し頬が赤くなった。
「読んでいいか?」
「帰宅して読んで……」
「声に出して読まないから……」
「でも、恥ずかしいから……」
「……分かったよ」
律さんは、諦めたような声で答えた。私が律さんに宛てた手紙は次のような内容だ。
『りつさんへ
てがみ、ありがとう。
わたしも、りつさんにあえて、うれしかったです。
Yシャツ、だいじにします。
そら、みてみるね。
しずくより』
漢字を使うと堅苦しくなると思ったから、アルファベット以外は全てひらがなで統一した。決して、漢字が書けないわけじゃない。その後も会話を交わして、面談を終えた。
個室。私は手紙を渡して不安だった。あの手紙を読んで律さんはどんな感情を抱くだろうか。私のことを想っているから、悪い印象は与えないかもしれないけど、ひらがなしかないから、逆に子どもっぽいと思われるのかな。それとも、手紙の内容としては少なすぎたかな。私は元々口数が少なかったから。心身症で学校を休んだことが多かったし、高校に入ってからは学校という施設に行かなくなったから。色付きのワイシャツを着られる勇気が私は欲しかった。律が私のためを想って買ってくれた服だもん。着ないなんて、律さんを悲しませてしまう。それはなんとしても避けたい現実だった。律さんの写真と色付きのワイシャツを何度も何度も見返す。写真の律さんは何も言わないけど、私に何か目で伝えているように感じる。でも、それはただの思い込み。私が不安に駆られていると、
「Yシャツの姉ちゃん!」
一人の男の子が私を呼んだ。
「どうしたの?」
「算数教えて! 難しくて分かんないから……」
「分かった……ちょっと待ってて」
私はノートとペンを持って、個室を出てその男の子の宿題を手伝った。
「律さん……」
いざ、言おうとすると、言葉が詰まる。
「どしたの?」
律さんが袖を捲った長袖のYシャツを直す。
「最後に交わした会話……覚えている?」
私は必死に言葉を出したのが、それだった。
「自分で言ったことだし、覚えているよ……ちゃんと実行に移していると思うけど?」
律さんは、そう答える。
「もう1回、言ってもらえる?」
私があの時の事をもう1回言ってほしいとお願いすると、
「俺は、雫がそこにいても、ずっと会いにいく……手紙も書くし、面談の許可が下りれば、必ず会いに行く……週に数回は、顔を見に行くよ」
抑揚はないものの、律さんは答えてくれた。
「手紙はいつ書いてくれる?」
私が聞くと、
「実は……雫が児童養護施設に入ってから1週間後を想定して書いた手紙が今、部屋にある……郵便局経由で送ろうと思っている……」
律さんはもう、手紙を書いていた。
「律さん……それ、次の面会の時持ってきてくれない? 直接渡してほしい」
私がお願いすると、
「……分かった! 明々後日の面談の時に持ってくる」
律さんはそのお願いを言葉が一瞬どもったけど聞き入れてくれた。私は律さんとの面談を終えたあと、児童たちの宿題を手伝った。
3日後、面談室。律さんが洋形封筒を私に渡す。真ん中に『月島雫様』と書いてある。私は受け取り、
「読んでいい?」
私が聞くと
「ちょっと恥ずかしいから、部屋に帰ってから読んでほしいな……」
律さんは顔を赤らめている。
「書いている時も、顔赤らめていたの?」
「いや……あの時、心に穴が空いていたような気持ちだったから……読みにくかったらすまない……」
律さんは、下を向いて私に目線を向けなかった。
「あと、電話もして欲しいな……」
「え? でも、雫……自分のスマホ持ってないだろ? あと、自身の電話番号も……」
「児童養護施設の固定電話にかけて……職員が教えてくれるよ……」
律さんが電話もして欲しいとお願いした。
「分かった……あとで職員に聞いてみる」
面談後、個室。私は洋形封筒を開いて、律さんが5週間ぐらい前に書いた手紙を読んでみた。
『児童養護施設に入所して、もう一週間が経ったね。
初めて会った日から、ずっとYシャツを着ていてくれてありがとう。あれは、俺が雫にあげた、初めての服だから。雫がそれを着ていてくれるだけで、俺はなんだか安心するんだ。
児童養護施設での生活は、慣れないことばかりで、辛いこともたくさんあると思う。でも、ここには、雫を助けたいと思ってくれる人がたくさんいる。
俺は、雫に何かしてあげられるわけじゃないけど、いつでも雫のことを考えているよ。
だから、もし、辛いことがあったら、空を見上げてみて。俺も同じ空を見て、雫が少しでも笑えるようにって、願っているから。
また、手紙を書くね。
律より』
私はその手紙を読むと、自然と涙が溢れた。あまり綺麗な字じゃないけど読めない字じゃない。どれだけの気持ちがこもっているのかよく分かる。私は少し勇気がわいた。これなら、色付きのYシャツも着れるかもしれない。私はハンガーにかけてある青のチェック柄の長袖Yシャツを見つめる。
「あと、もうちょっと勇気を与えて……」
私は色付きのYシャツの裾を掴む。
翌日、昼頃。
「雫さん? 律さんから電話が来てますよ?」
児玉さんが教えてくれた。私は固定電話の受話器を手に取って律と日常会話をした。児童養護施設に併設されている保育施設の子どもたちと仲良くなった話、絵本を読み聞かせた話、夕方には小学生の宿題を教えている話など。
「次の面談の日に返事の手紙書くからね!」
『分かった……楽しみに待っている』
私は受話器を置いた。私は一旦部屋に戻って学習用のタブレットを手に取る。そして、固定電話に戻ってタブレットに最初から入っている録音のアプリケーションを開いて、さっきの通話内容を録音した。受話器の下部分をタブレットのスピーカーに近づけて。私はここの児童養護施設の固定電話の仕組みを知っていた。職員たちがすぐに対応できるように、固定電話は自動で録音機能が付いていることに。留守電などで確認を取るための機能。特定のボタンを押せば再生できる。私はそれを知って、律さんとの通話記録をタブレットに録音して固定電話の記録から消して、個室で聞くという手はずを組んでいた。これなら、律さんの手紙がそばにあってくれること、律さんの声が聞けることで、私は少しずつ勇気をもらっていった。
面談日。私は洋形封筒を手作りして律さんに渡した。
「俺の封筒使い回していいのに……」
「いや……あの封筒は私のものだから律さんに返さない……」
私は少し頬が赤くなった。
「読んでいいか?」
「帰宅して読んで……」
「声に出して読まないから……」
「でも、恥ずかしいから……」
「……分かったよ」
律さんは、諦めたような声で答えた。私が律さんに宛てた手紙は次のような内容だ。
『りつさんへ
てがみ、ありがとう。
わたしも、りつさんにあえて、うれしかったです。
Yシャツ、だいじにします。
そら、みてみるね。
しずくより』
漢字を使うと堅苦しくなると思ったから、アルファベット以外は全てひらがなで統一した。決して、漢字が書けないわけじゃない。その後も会話を交わして、面談を終えた。
個室。私は手紙を渡して不安だった。あの手紙を読んで律さんはどんな感情を抱くだろうか。私のことを想っているから、悪い印象は与えないかもしれないけど、ひらがなしかないから、逆に子どもっぽいと思われるのかな。それとも、手紙の内容としては少なすぎたかな。私は元々口数が少なかったから。心身症で学校を休んだことが多かったし、高校に入ってからは学校という施設に行かなくなったから。色付きのワイシャツを着られる勇気が私は欲しかった。律が私のためを想って買ってくれた服だもん。着ないなんて、律さんを悲しませてしまう。それはなんとしても避けたい現実だった。律さんの写真と色付きのワイシャツを何度も何度も見返す。写真の律さんは何も言わないけど、私に何か目で伝えているように感じる。でも、それはただの思い込み。私が不安に駆られていると、
「Yシャツの姉ちゃん!」
一人の男の子が私を呼んだ。
「どうしたの?」
「算数教えて! 難しくて分かんないから……」
「分かった……ちょっと待ってて」
私はノートとペンを持って、個室を出てその男の子の宿題を手伝った。
