〜真昼の月と見慣れない制服〜

 夜、児童養護施設の送迎車内。何日か前に、私の両親が律さんの部屋を訪れた。ドアを激しく叩き、インターホンを何度も鳴らしてとても怖かった。律さんは警察を呼ぶフリで追い払ってくれた。けど、律さんは私がこのままここにいても安全じゃないと言った。律さんはまだ16歳だから、監護者になれないとのこと。律さんが親と同居していれば、律さんの親が私の監護者になれるかもしれない。律さんの部屋にいたら私が安全に暮らせない。でも、律さんと離れたくない。だけど、律さんは法律で監護者になれない。律さんは私が安全に暮らせて、法律で許される最善の方法が児童養護施設に預けることだった。心身症で服を着られない私が児童養護施設に入って大丈夫なのだろうか。律さんは私が児童養護施設に行っても
「ずっと会いに行く……手紙も書くし、面談の許可が下りれば、必ず会いに行く」
と。言ってくれた。正直、何年も外に出てないから不安で頭がいっぱい。今は、ふれあい児童養護施設の送迎車の中にいる。車内には運転手と4人の女性職員がいる。夜の外に律さんのYシャツ1枚で出るのは、すごく恥ずかしかった。夜だから人目は少ないかもだけど、真っ暗だと白はかなり目立つかも。私の靴は無かったから、律さんの靴を借りた。児童養護施設に預かることが決まって前日は律さんの冷そうめんを食べたけど、あまり食欲がわかず、少量しか食べられなかった。私は膝に手を置いて、ビクビク震えていた。すると、女性職員の1人が私の肩に手を置いて
「大丈夫だよ、雫ちゃん……もう誰もいないからね……怖い思いさせてごめんね」
と。優しく声をかける。私はなぜかその言葉に肩の力が抜けた。身構えが解けた。私の今の心情を理解してくれたのだろうか。
 数十分後。ふれあい児童養護施設の送迎車が停まった。外は真っ暗でどこなのかも分からない。送迎車から降りると、1人の女性職員が待っていた。私が近づくと
「雫さん、ようこそ……児玉佳相(こだまかそう)と言います……もう大丈夫だからね……よく頑張ってきてくれたね」
と。優しく声をかけてくれた。4人の女性職員は送迎車に戻り、送迎車は駐車場に向かった。私は児玉さんに連れられて、ふれあい児童養護施設の建物に入った。
 ふれあい児童養護施設、談話室。児玉さんが最初に連れてきた場所は談話室だった。電気をつけてもらうと落ち着いた雰囲気の室内だった。電子ケトルとか、机には個包装の菓子が入った小さな箱とか置いてある。けど、監視体制はあるみたいで部屋の隅には監視カメラが付いている。作動中の紙まで掲げられている。私と児玉さんが向かい合って座るとここでの生活ルールが教えられた。
 起床時間は午前6時で就寝時間は午後10時とのこと。
 食事は朝7時と昼12時、夜8時に食堂で集まって取るとのこと。でも、中には集団生活が苦手な子も居るから、その子には個室まで運んでくるみたい。私もその対象だった。
 外出は基本的に職員の許可が必要とのこと。施設内にはベランダもあるから、陽の光を浴びるぐらいならできそう。
 持ち物や所持金の管理。貴重品や所持金(お金)は職員が預かるとのこと。私は学習のためにタブレットが必要だけど、それも預かるのだろうか。
 学習時間の確保。午後4時から6時は児童たちは宿題の時間みたい。私の学校は自宅学習が主流だから、その時間は他の児童の宿題を手伝うことは出来るかもしれない。
生活ルールの後は、今後の流れを説明された。私の心身症を少しでも治すために定期的にカウンセリングを受けるとのこと。職員にセラピストがいるから、その人と児玉さんが私の主な担当になるみたい。私が心身症で服を着れないことは律さんが電話で話してくれて、職員全員にも伝えていると教えてくれた。生活ルールと今後の流れの説明が終わった後は、個別部屋に案内された。個別部屋には、すでに寝具が用意されていた。私はキャリーケース(律さんが用意してくれた)を部屋の隅に置いて、寝具を広げる。敷き布団は律さんのベッドみたいにフカフカ感は少ないが、心地よい素材でできている。枕はパイプ枕と呼ばれるもので、中にジャリジャリした素材が入っている。掛け布団は今の季節は夏だから、薄い素材だった。私はYシャツを脱ぎ、そのYシャツを個室内にあったハンガーにかけて、眠りについた。時刻は日を跨ぐ1分前だった。
 朝6時。部屋の隅にあるスピーカーから目覚まし用の音楽が鳴る。私は目を覚ます。そして、寝具を畳み個室を出る。中には職員が朝食の準備をしていた。すると、1人の女性職員が私を見るとエプロンを脱いで私の体を覆うように巻いた。私は自分の体を見た。私は顔が真っ赤になり、個室に戻った。私はまた同じ失態をした。律さんの部屋で夜を過ごした翌朝も同じことをした。私はYシャツを着て、エプロンを女性職員に返した。顔を洗いたかったけど、他の子どもに見られていないか怖くて個室から出れなかった。
 体感1時間後。大勢の子どもの声が外から聞こえてくる。職員がまだ起きていない子どもを起こす声や眠そうにあくびをしている子どももいる。これが児童相談所の日常なんだ。すると、
ーートントン!
と。個室のドアがノックされた。私がドアを開けると
「雫さん、朝食をお持ちしました」
と。さっき私にエプロンを巻きつけた女性職員が、朝食を盛り付けたお膳を持っていた。私は
「あ、ありがとうございます」
と。言い差し出されたお膳を受け取る。児童養護施設は朝から白米と味噌汁がついていた。ウインナーと卵焼きが、おかずとしてついている。白米は艶があって、炊飯器で炊いているのが分かる。味噌汁もお湯を注ぐだけで出来るものじゃなくて、1から食材を切って作っている。私の目は宝石のようにキラキラ輝かせていたと思う。児童相談所の朝食はとても美味しかった。私は完食した朝食のお膳をさっきの女性職員に返却する。そして、今朝のことを謝罪する。
「あの……今朝は不快な思いをさせて……」
言葉が詰まって、謝罪の意が出てこない。すると
「私も家ではその格好ですよ」
と。返す。その女性職員も家では裸族なのだろうか。
「あなたの行動は、決して異常なことではない」
女性職員はそう言って、受け取ったお膳を持って去っていった。こうして、私の児童養護施設の生活が始まった。