【番外編】あなたが白制服に着替えたら、それが愛のはじまり



週末、二人は車で桜島へと向かった。

桜島。
言わずもがな鹿児島のシンボルであり世界的にも有名な活火山でもある。

二人は有村溶岩展望台から桜島の雄姿を眺めた。
今も噴煙を上げ続けており、その迫力と雄大さに圧倒されてしまう。

「俺たちが住んでいる場所にも風向きによっては桜島の灰が降るらしいよ」

柊慈も信じられないよなといった顔で言った。

「生きている山って感じがするね」

青森の山とはまた迫力も景観も違う。
それが夏帆には新鮮だった。


「今日は霧島温泉郷に宿をとったんだ。ついでに霧島神宮に寄っていこう」
ランチを食べながら柊慈がそう提案した。
「温泉?楽しみ!」
「夏帆、温泉好きだもんな」
「うんっ」
夏帆は跳ねるような笑顔で柊慈に笑った。

「でも、なぜ霧島神宮を選んだの?」

「うーん、本当は指宿で定番の砂風呂を楽しもうかと思ったけど、なぜか霧島神宮にお参りに行きたくなったんだ」

「そうなんだ。引き寄せられるものがあったんだね、きっと」

「かもな」

柊慈はそう言って夏帆に微笑んだ。



宿に行く前に霧島神宮へとやってきた二人。
神宮に向かう道には大きな赤い鳥居があり、そこを車で通り抜ける。
この神宮は森林に囲まれた厳粛な雰囲気がある。
駐車場につくと二人は並んで歩いた。

「ここはパワースポットで有名なところだって」
神宮につづく緑の木々を見上げながら柊慈は言った。
「運気が上がるのかな」
「ご利益があるといいな」
会話をしながら歩いていく。

そして立派な杉の木々たちを抜けると、目の前に厳かな霧島神宮が鎮座していた。

「うわぁ…すごい…」

そのなんとも言えない身が引き締まるような空気から、夏帆は恐山のイタコに会ったときを思い出した。

「そういえば私、柊慈さんに出会う前にイタコさんに口寄せしてもらったの」

「口寄せ?」

「その時、一日限定の霊力を授けてもらって不思議な男の子に出会ったの」

「どんな子?」

「見た目は普通のかわいい子。神出鬼没で突然いなくなるのよ。でね、その子の名が…」
「名が?」



「天使待機所から来た成瀬 翔くんっていうの」


「天使待機所? 同じ成瀬とは何か縁でもあったのかな」

「かもしれない。でねそのイタコさんに言われたの。運命の人にもうすぐ出会うって。それからすぐに柊慈さんとの同居が始まったのよ」

「すごいなその人。未来が見えるのか?」

「そういう雰囲気はあったけど…」

「じゃあ、ここの霧島神宮でお願いしたら意外と叶うかもしれないな」

「柊慈さん、願い事があるの?」

「うん。俺のお願いを聞き入れてもらいたい人がいるんだ」

「えー⁈ 誰になんのお願い?」
夏帆は少しだけやきもちを焼いてしまう。


二人はお賽銭を投げて手を合わせた。
夏帆の願いはもちろん、柊慈の健康と安全祈願だった。
むしろこれ以外はないといってもいい。

夏帆が丁寧にお願いをしてから顔をあげたら、柊慈はまだ目を瞑り手を合わせていた。
ようやく柊慈が顔をあげるとその真剣な眼差しに夏帆はキュンとしてしまう。

(柊慈さんをこんなに真剣な表情にさせる願い事って一体、何?)

「どんなお願いしたの?」
やきもちを焼いた夏帆が聞いてみた。

「俺のあつーい想いをお願いしたよ。今は内緒」

「ずるい。気になる! じゃあ、叶ったら教えてくれる?」
めずらしく夏帆が唇を突き出し拗ねた。

「叶ったらね」

柊慈は軽くウィンクしておどけて見せた。

「絶対だよ⁉」
「はいはい」

可愛らしい嫉妬をする夏帆に柊慈は微笑む。

「夏帆って、やっぱり可愛いな」

つい柊慈は心の声が漏れてしまう。
何気なく漏れる本心ほど嬉しいものはない。
夏帆は照れるように笑った。

そして柊慈は夏帆の手を取り神宮内を歩いてゆくのだった。





「ちょっと、待って。部屋に温泉付きって、すっごく高いんじゃないの?」

ここは今夜の宿。
霧島温泉郷の自然豊かな場所に佇む低層の旅館宿の一室。
この部屋には露天風呂が付いていた。

柊慈が予約した部屋が想像以上に豪華で夏帆は驚きより青ざめてしまった。
夏帆の言葉を聞いた柊慈は荷物を置きながら呆れる。

「俺たち新婚だよ。大好きな奥さんと泊まる宿にお金かけるのは当然だよ」

「柊慈さん…。ありがとう」

柊慈のそんな心意気に夏帆はうっすら涙で目が潤んだ。

脱衣所と露天風呂はクリアガラスで仕切られていた。
柊慈が温泉へと続く戸を開けて夏帆を誘う。

「温泉、見てみる?」
「うんっ」

夏帆のために開けてくれているガラス戸を抜けると、もくもくと湯気が立ち込めるヒノキ風呂が目に飛び込んできた。

「うわぁ!ヒノキ風呂!」

夏帆が目を丸くする。
気分が落ち着くヒノキの香りが漂っていた。
そこに後ろから柊慈が口を開く。

「確かにお金をかけた分は楽しみたいな」

「じゃあ、お風呂に3回は入ろうね!」

温泉好きの夏帆はウキウキで柊慈に言った。

「…よし。ではさっそく…」

柊慈が後ろから夏帆の上着を一枚づつ剥がそうとしてゆく。

「ちょっと待ってっ! 今から?」
「そう。ダメ?」
「いいけど…。うん、入ろう。でも、服は自分で脱ぐから…」

と頬を赤らめて夏帆は柊慈の腕を解いた。