【番外編】あなたが白制服に着替えたら、それが愛のはじまり

「夏帆、寂しくなったら真夜中でもいいから連絡してね」

息子の功太を抱っこしながら、真希が目に涙を滲ませてそう言った。

「成瀬さんもついているし夏帆ちゃんなら大丈夫でしょう」 

旦那さんの碧人が夏帆を励ました。

ここは青森空港。出発ロビー前。

この春の人事異動で柊慈は鹿児島の基地へ転勤になった。
当然、妻である夏帆も帯同だ。

本日、鹿児島へと旅立つ柊慈と夏帆の見送りに真希夫妻と父親が空港まで来てくれたのだ。

「うん。ありがとう。青森に帰ってくる時は必ず連絡するね」

夏帆は不安を見せぬよう、精一杯の笑顔でこたえた。
そして次に父の佳孝に身体を向けた。

「お父さん、行ってくるね。何かあったら…」
また佳孝の心配をしようとしたら、
「心配はいらん。おれの周りには頼れる親戚がたくさんいるだろう?」
佳孝は夏帆の話を遮りおどけて見せた。

「夏帆も新しい土地に慣れるまでは大変だけど、しっかり柊慈を支えるんだぞ」
今度は柔らかに微笑んだ。

「うん。夏にはまた帰るからね」
「ああ」

そして夏帆は、また真希に振り返った。

「最後に功太くんを抱っこしてもいい?」
功太は8か月の可愛いさかりだ。抱っこすると赤ちゃん特融の温かさと柔らかさがなんとも言えない。
「次に会うときはきっと歩き回っているね」
「そうだね…」
夏帆はほんのり寂しさを感じながらも笑顔でこたえた。



そして出発。
柊慈と共にカウンターを抜けたところでみんなに振り返り、夏帆は大きく手を振って別れた。

飛行機の中。

窓側に柊慈が座り夏帆は通路側に座った。
高所恐怖症の夏帆は人生初の旅客機だ。

また貧血を起こすのではないかと恐怖心もあったが、事前に柊慈から「旅客機ほど安全な乗り物はない」と洗脳されるように言われ続けており今もなんとか平常心を保てていた。

「夏帆、大丈夫?」
「うん。柊慈さんのおかげで平気。外の景色も…高すぎてここはどこって感じで恐怖も感じない」
夏帆もけろっとした顔で言った。
「そうか、よかった」
それもそのはず。
二人のひざ掛けの下では、しっかり柊慈が夏帆の手を握りしめているのだから。




いよいよ鹿児島空港へ着陸となる。

夏帆は離陸着陸の瞬間は手に汗をにぎったが、なんとか持ちこたえた。

そして鹿児島空港へ降り立った瞬間、空気が全く違うことに気が付いた。

3月下旬、青森は小雪がちらつく日もある。
しかし、ここ鹿児島の空気は温かく匂いも違った。
ああ、知らない地にやってきたのだなと夏帆は感じた。





二人が入居する官舎に到着と同時に引越し荷物の荷入れが開始された。
引越しに慣れきっている柊慈が手際よく業者に指示を出してゆく。
あっという間だった。

夏帆が一つ一つ段ボールを解いていこうとしたら、
「そこの荷物は使う時に開ければいいよ。2年後また引っ越すから、使わないなら入れっぱなしのほうが都合がいい」
「なるほど」
夏帆も妙に納得してしまった。

「荷物の整理もほどほどにして、ご近所さんへ挨拶回りしますか」
柊慈が夏帆を誘った。
「うんっ」
いよいよ新生活が始まるのだ。どんなご近所さんがいるのか夏帆は楽しみでもあった。




まずは隣の部屋の「小林」宅へと挨拶に向かった。

ピンポーン

「はーい」
がちゃりと戸が開いた。
目がぱっちりした小柄な女性が出てきた。

「隣に引っ越してきた成瀬と申します。よろしくお願いします」
と柊慈が挨拶の品を手渡した。
「ありがとう。うちは小林ですー」
ニコニコで挨拶をすると、奥からドタバタと走って来た子供たちが顔を見せた。

「あ、うちの子供です。上が小学校1年生の朱里、下は3歳の琴美です。よろしくお願いしますねー」

「姉妹ですか、可愛いですね」

夏帆が微笑んだ。幼稚園の先生をしていた夏帆にとって、これくらいの子供はかわいくて仕方がない。

「成瀬さんのことろはお子さんは?」
小林が目をぱちくりさせて質問してきた。

「まだです」
「そう。この地域の産婦人科なら詳しいから、わからないことあったら何でも聞いてね!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
二人は丁寧に頭を下げた。


挨拶周りを終えて部屋に戻った二人。
「自衛官の奥さんって、いい人ばかりね。明るくって頼りがいのある人って感じで」

「地方だとさみんな親が遠いから、近い他人が頼りになるんだよ」

「そういえば白戸一尉の奥さんも言ってたな。自衛官妻は助け合いの精神が強いって、そういうことなんだね」

「頼もしいな。夏帆も買い物するスーパーとか病院とか、わからないことがあったら積極的に声をかければいいよ」

「うんっ」
近所の妻たちがとても好意的だったのもあり夏帆はホッとした。

柊慈が夏帆の後ろからきゅっと抱きしめてきた。

「週末だけどさ…ちょっとした旅行に行かないか?」

「どこへ?」

「鹿児島の有名所を1泊で回ってみようと思う」

「…素敵。行きたい」

「引越し準備で忙しかったもんな。のんびり観光でもしよう」

「うん。ありがとう…柊慈さん」

きっと慣れない土地で過ごす自分への配慮だろうと夏帆は気づいていた。
そうとは言わない、柊慈の何気ない優しさに幸せを感じるし申し訳なくも感じてしまう。

(私も柊慈さんにたくさん尽くします…)

そうして夏帆を抱きしめる柊慈の手に自分の手を重ね合わせるのだった。