1ヶ月後――ホワイトデー
バレンタインのその後、塾内で特にそのことを口にすることもなく、ホワイトデーを迎えた。
と言っても、例によって私は梓ちゃんに言われて初めて気がついたのだけれど。
授業が終わって帰ろうとした時、早川くんたちに呼び止められた。
何か見覚えのある光景……この前と同じ構図だけど、ポジションが反対。
そんな中、平塚くんと三島くんが梓ちゃんに話しかけて、私の目の前には早川くん。
「……これ」
そう言って早川くんが差し出したのは、淡い水色と白のストライプの箱。
知ってる……有名なクッキー屋さんの箱だ。
「え、私?」
「他にいないでしょ」
「あっありがとう!これ、有名だよね」
「……適当に選んだだけだし」
自分で選んで、買ってくれたんだ。
照れているのかやっぱり目を逸らしている早川くん。
けれどそんな彼のことが視界に入らないほど、自分で選んでくれたという事実が思っていたより嬉しくてジーンとする。
早川くんの存在も忘れてしまうほど、ジーっと箱を見つめてしばらく黙っていたら、早川くんの声が降ってくる。
「中学行っても塾続けるの?」
「えっ、うん。そのつもりだけど……」
むしろやめるという選択肢は全く頭になかったので、早川くんの突然の質問にキョトンとしてしまった。
「じゃあまた……よろしく」
「あっ、うん」
ってことは早川くんも続けるってことなのかな、よかった。
ん……?よかった?
その後、平塚くんと三島くんからもありがたいことにお返しなる物をいただき、いつも通り梓ちゃんと家へ向かった。
「これ、早川くん自分で選んだんだって!ちょっと意外だよね〜」
三島くんからもらえで喜ぶ梓ちゃんの話を聞いたのち、私は早川くんの話題を出す。
すると、聞いていた梓ちゃんが一言発した。
「あかり、早川くんのこと好きなんじゃない?」
「…………え?」
街灯が照らす道に、長く伸びる私たち2人の影が止まる。
梓ちゃんの言葉に思わず足を止めてしまった。
「あかりがそんなに自分から男子の話するの珍しいし、何よりすごい嬉しそう」
「……そう?」
「あと気づいてないかもだけど、さっきから早川くんからもらった袋ばっかりチラチラ見てるよ」
全く気づいてなかった……
いやでも好きって……それだけで……さすがにそれはないと思う。
「まぁ、ゆっくり向き合ってみなよ。好きでもそうじゃなくても、別にどっちでも悪いわけじゃないんだから。でもね、恋って楽しいよ」
そう言われたところで、いつものバイバイする場所に着いたので、梓ちゃんと別れた。
家に着き自分の部屋に入って、もらった紙袋3個を机に並べる。
早川くんからは思った通りクッキー、平塚くんからはマカロン、三島くんからはマドレーヌとフィナンシェだった。
私はマカロンとフィナンシェがお菓子の中でも特に好き。
けれど、視線が行くのは……特に嬉しいって思ってしまうのは……クッキーだ。
早川くんがホワイトデーという日を認識していて、お返しするっていう概念がちゃんとあって、そのためにお店に行って、女子向けのお菓子を選んでくれて買ってくれて……
ぶっきらぼうなところもあって、会話も続かない、あの早川くんが……
そう考えるだけで、ドキドキして、顔が熱くなって、嬉しくて。
何かがこう、ぐわーっと胸から湧き上がってくる感じ。
『早川くんのこと好きなんじゃない?』
梓ちゃんの言葉が脳内に聞こえてくる。
熱を持った頬に両手を当てて、少しでも冷まそうとする。
けれど全く冷める気配はない。むしろ熱くなっている。
「うそ……本当に?」
小学校6年生の冬、いや小学校卒業を来週に控えた冬の終わり――私は人生初めての恋をしてしまったらしい。

