ヴィヴィアが乗る馬車が王都に辿り着き、ヴィヴィアは外の賑やかさを目の当たりにした。
クリスのいう通り、本当に色んな人たちが集まっている。
星河祭は貴族にとっても平民にとっても大事な行事であったというのを思い出す。
自分のデビュタントの時もこのような賑わいだったのだろう。
王都まで家族全員で参ったが、パーティー当日までヴィヴィアは父母に仕事を任されて寝る間も惜しんで書類をまとめていた。
デビュタントはできないのだろうと諦めていたら、家門の恥になると言われて母のお古のドレス、寝不足気味な目と肌のまま参加させられた。おまけにエスコートはドタキャンされて、同世代の淑女たちから笑われた。
強い眠気の中、気を張り詰めてしまい、しばらくは食欲が消せて体調を崩してしまった。
淑女として恥ずかしくないようにと茶会を開かされて失敗して、婿探しをしろとパーティーへ参加させられて殿方から嘲笑される。
ようやく舞い込んだ見合い話はすぐにダメになる。
そして父母から与えられ続ける仕事の山にヴィヴィアは少しずつ疲弊して考えることをやめてしまった。
自尊心は低くなり、少しずつヴィヴィアの頬が硬くなり、表情を失っていくのを感じた。
煩わしい社交界は早く終わって欲しいと願いながら過ごしている時に手を差し伸べたのはクリスだった。
白けた味気ない世界は鮮やかな色へと変わっていくのを感じた。
すぐに契約結婚の話になり、彼が一気に悪魔のように感じられた。
「奥様、そろそろ屋敷に着きます」
ケイトが声をかけてヴィヴィアはこくりと頷いた。
王都の郊外に貴族たちの屋敷が立ち並ぶ。
その中で一等華やかなゴーヴァン家の屋敷は相変わらず圧倒される。
モーガンの屋敷の方が広くて荘厳であるが、こちらもとにかくすごい。
初めて来た時はお城!とびっくりしたものだ。
ここでは数日だけの滞在で、その間していたことはクリスが呼んでいたブティックや宝石店の着付けであった。
何十着ものドレス、装飾品、外出用に必要な道具を買ってもらい萎縮し切ったものだ。
一生分の買い物をした気分で、金銭感覚がバグりそうで怖かった。
「ようこそおいでになりました」
馬車の扉が開かれるとクリスが待機していた。
わざわざ迎えに来てもらえるなんて。
「申し訳ありません。突然のお願いで」
「いいえ。ここもあなたの家です」
馬車から降りる際にクリスはヴィヴィアの手を取り支えてくれた。
馬車を出るとずらりと使用人たちが並び控えていた。
「ごきげんよう」
ヴィヴィアはいまだに慣れない歓迎にどきどきしながら挨拶をした。
その中にクリスの秘書官を見つけた。
「モリス秘書官も久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです」
無表情のまま簡素な挨拶にヴィヴィアは首を傾ける。以前出会った時と雰囲気が違うような。
疲れているのかな。
ちょうど食事の準備ができたといい2人で久々の食事を過ごした。
その間、ヴィヴィアが考えている慈善活動について相談してクリスはうんうんとうなずいていた。
「ヴィヴィアのしたいようにしてください」
「大丈夫ですか? 一応、ゴーヴァン家の名で動いているので閣下のご迷惑にならないか心配で」
「問題ありません。問題が起きてもそれは未来を活かす為になるでしょう」
本当にそうだろうか。
内心結構な賭けになると思った。
こればかりは世間の反応に委ねることになる。
実は絵本の刊行を支援しようと考えた。
ある童話作家志望者の作品を支援して刊行してチャリティーに出す。
その得られた金銭は孤児院への寄付に回すのだ。
ヴィヴィアが予め絵本作家に3年ほど生活支援して作家はその間作品作りに専念してもらう。
「3年は短いように感じますね」
「3年経過しても芽が出ないようなら諦めて実家に帰る約束をしているみたいです」
ヴィヴィアはそれとなく説明した。
3年以降は厳しいだろう。
小説ではヴィヴィアの破滅のカウントダウンがはじまる時期だ。
クリスとベザリーが両思いになる時期でもある。その時は身の回りの整理をしてゴーヴァン公爵家を出るつもりだ。
「何でしたらヴィヴィアのお金ではなく私が支援金を出しましょう」
「い、いえ。大丈夫です。私のお金はそもそもあなたのお金ですよ」
ヴィヴィアはぶんぶんと首を横に振った。
「興味がありますね」
クリスはナイフで肉料理を切りながら呟いた。
「あなたが支援したいと願うほどの絵本が」
ヴィヴィアはパンを飲み込んで、残りを皿に戻した。
クリスの顔をちらりと見てすぐに下を向いて聞いてみる。
「その、後で絵本のサンプルを見ていただけますか?」
「もう印刷されているのですか」
「素人の手作業です」
「わかりました。見せてください」
食事が終わり、夜の支度をする。
ヴィヴィアはクリスが部屋にきて既に準備していた絵本のサンプルをみせた。
お酒をグラスに注ぎながらヴィヴィアはクリスの様子を見つめた。
クリスの表情がよく読めない。
パラ、パラと冊子がゆっくりとめくられていく。
最後の1ページが終わり、クリスはパタンと冊子を閉じた。
「面白いですね。動物の掛け合いが愛らしくて。内容は難しくないですし、5歳からでも対象になるでしょう。それと、ここは古典の一部を引用していますね。聡い子なら古典に興味を持つきっかけにもなるかも」
「そこまでは考えていません」
ヴィヴィアは慌てて訂正した。
あくまで気軽に読める本を考えていた。
3歳からの読み聞かせになるかなと思ったが、まだ内容は難しく対象年齢はそのくらいが無難か。
「あなたにこのような才能があるとは思いませんでした」
ヴィヴィアは目をぱちぱちとさせた。
「これは、あなたが描いたのでしょう」
クリスの言葉にヴィヴィアはグラスを落としてしまった。
ガチャン
ガラスの割れる音にヴィヴィアは慌てて椅子から立ち床の方に手を伸ばした。
「やめなさい!」
クリスが強い言葉でヴィヴィアを制した。
同時に鈴をならせて、ケイトを呼ぶ。
すぐに察したケイトは割れたものと溢れた酒を片付けてくれた。
ケイトが去った後にヴィヴィアは口を開く。
「どうして、私が描いたと」
「モーガンの部屋で落ちていた紙に絵があり、絵本のキャラクターと同じでした」
なるべく絵を描いた紙は片付けていたつもりだったが。
自分のうかつさに頭を抱えた。
「絵本を作るようになったのはいつ頃ですか?」
「雨の季節に。気楽に読める本が欲しくて思いついたのです。ノエルには好評で絵本が欲しいと言っていて、ちょうどサンベル地方でもチャリティーイベントがあると知って」
ヴィヴィアは顔を両手で隠して経緯を話した。
恥ずかしくて堪らない。
実は前世で大学時代にイベントで本を作っていた。素人でも作ることができると知り、10冊くらい作り知り合いに配る程度の活動であったが。
「これを売り物にするのは、おかしいですよね」
「そんなことはありません」
何を言っても肯定してくるクリスの言葉でヴィヴィアはますます萎縮してしまった。
「ヴィヴィア、これを本にしましょう」
「ですが、チャリティーで売れなかったら」
「では、少なめの部数にしましょう。残ったら孤児院や修道院に寄付しましょう」
ヴィヴィアは弱々しくこくりと頷いた。
「さ、今日は寝ましょう。明日からパーティーの準備で忙しくなりますよ」
「別に……デビュタントではないのだから大丈夫ですよ」
「デビュタントですよ。私の妻として」
クリスはヴィヴィアの頭を撫でて微笑んだ。
まだまだ恥ずかしくてクリスの顔をまともに見られない。
こんな状況で寝られるわけ……
寝られた。
前もこんなことがあった。
実は3日かけての馬車移動であり、かなり疲れていた。
クリスのいう通り、本当に色んな人たちが集まっている。
星河祭は貴族にとっても平民にとっても大事な行事であったというのを思い出す。
自分のデビュタントの時もこのような賑わいだったのだろう。
王都まで家族全員で参ったが、パーティー当日までヴィヴィアは父母に仕事を任されて寝る間も惜しんで書類をまとめていた。
デビュタントはできないのだろうと諦めていたら、家門の恥になると言われて母のお古のドレス、寝不足気味な目と肌のまま参加させられた。おまけにエスコートはドタキャンされて、同世代の淑女たちから笑われた。
強い眠気の中、気を張り詰めてしまい、しばらくは食欲が消せて体調を崩してしまった。
淑女として恥ずかしくないようにと茶会を開かされて失敗して、婿探しをしろとパーティーへ参加させられて殿方から嘲笑される。
ようやく舞い込んだ見合い話はすぐにダメになる。
そして父母から与えられ続ける仕事の山にヴィヴィアは少しずつ疲弊して考えることをやめてしまった。
自尊心は低くなり、少しずつヴィヴィアの頬が硬くなり、表情を失っていくのを感じた。
煩わしい社交界は早く終わって欲しいと願いながら過ごしている時に手を差し伸べたのはクリスだった。
白けた味気ない世界は鮮やかな色へと変わっていくのを感じた。
すぐに契約結婚の話になり、彼が一気に悪魔のように感じられた。
「奥様、そろそろ屋敷に着きます」
ケイトが声をかけてヴィヴィアはこくりと頷いた。
王都の郊外に貴族たちの屋敷が立ち並ぶ。
その中で一等華やかなゴーヴァン家の屋敷は相変わらず圧倒される。
モーガンの屋敷の方が広くて荘厳であるが、こちらもとにかくすごい。
初めて来た時はお城!とびっくりしたものだ。
ここでは数日だけの滞在で、その間していたことはクリスが呼んでいたブティックや宝石店の着付けであった。
何十着ものドレス、装飾品、外出用に必要な道具を買ってもらい萎縮し切ったものだ。
一生分の買い物をした気分で、金銭感覚がバグりそうで怖かった。
「ようこそおいでになりました」
馬車の扉が開かれるとクリスが待機していた。
わざわざ迎えに来てもらえるなんて。
「申し訳ありません。突然のお願いで」
「いいえ。ここもあなたの家です」
馬車から降りる際にクリスはヴィヴィアの手を取り支えてくれた。
馬車を出るとずらりと使用人たちが並び控えていた。
「ごきげんよう」
ヴィヴィアはいまだに慣れない歓迎にどきどきしながら挨拶をした。
その中にクリスの秘書官を見つけた。
「モリス秘書官も久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです」
無表情のまま簡素な挨拶にヴィヴィアは首を傾ける。以前出会った時と雰囲気が違うような。
疲れているのかな。
ちょうど食事の準備ができたといい2人で久々の食事を過ごした。
その間、ヴィヴィアが考えている慈善活動について相談してクリスはうんうんとうなずいていた。
「ヴィヴィアのしたいようにしてください」
「大丈夫ですか? 一応、ゴーヴァン家の名で動いているので閣下のご迷惑にならないか心配で」
「問題ありません。問題が起きてもそれは未来を活かす為になるでしょう」
本当にそうだろうか。
内心結構な賭けになると思った。
こればかりは世間の反応に委ねることになる。
実は絵本の刊行を支援しようと考えた。
ある童話作家志望者の作品を支援して刊行してチャリティーに出す。
その得られた金銭は孤児院への寄付に回すのだ。
ヴィヴィアが予め絵本作家に3年ほど生活支援して作家はその間作品作りに専念してもらう。
「3年は短いように感じますね」
「3年経過しても芽が出ないようなら諦めて実家に帰る約束をしているみたいです」
ヴィヴィアはそれとなく説明した。
3年以降は厳しいだろう。
小説ではヴィヴィアの破滅のカウントダウンがはじまる時期だ。
クリスとベザリーが両思いになる時期でもある。その時は身の回りの整理をしてゴーヴァン公爵家を出るつもりだ。
「何でしたらヴィヴィアのお金ではなく私が支援金を出しましょう」
「い、いえ。大丈夫です。私のお金はそもそもあなたのお金ですよ」
ヴィヴィアはぶんぶんと首を横に振った。
「興味がありますね」
クリスはナイフで肉料理を切りながら呟いた。
「あなたが支援したいと願うほどの絵本が」
ヴィヴィアはパンを飲み込んで、残りを皿に戻した。
クリスの顔をちらりと見てすぐに下を向いて聞いてみる。
「その、後で絵本のサンプルを見ていただけますか?」
「もう印刷されているのですか」
「素人の手作業です」
「わかりました。見せてください」
食事が終わり、夜の支度をする。
ヴィヴィアはクリスが部屋にきて既に準備していた絵本のサンプルをみせた。
お酒をグラスに注ぎながらヴィヴィアはクリスの様子を見つめた。
クリスの表情がよく読めない。
パラ、パラと冊子がゆっくりとめくられていく。
最後の1ページが終わり、クリスはパタンと冊子を閉じた。
「面白いですね。動物の掛け合いが愛らしくて。内容は難しくないですし、5歳からでも対象になるでしょう。それと、ここは古典の一部を引用していますね。聡い子なら古典に興味を持つきっかけにもなるかも」
「そこまでは考えていません」
ヴィヴィアは慌てて訂正した。
あくまで気軽に読める本を考えていた。
3歳からの読み聞かせになるかなと思ったが、まだ内容は難しく対象年齢はそのくらいが無難か。
「あなたにこのような才能があるとは思いませんでした」
ヴィヴィアは目をぱちぱちとさせた。
「これは、あなたが描いたのでしょう」
クリスの言葉にヴィヴィアはグラスを落としてしまった。
ガチャン
ガラスの割れる音にヴィヴィアは慌てて椅子から立ち床の方に手を伸ばした。
「やめなさい!」
クリスが強い言葉でヴィヴィアを制した。
同時に鈴をならせて、ケイトを呼ぶ。
すぐに察したケイトは割れたものと溢れた酒を片付けてくれた。
ケイトが去った後にヴィヴィアは口を開く。
「どうして、私が描いたと」
「モーガンの部屋で落ちていた紙に絵があり、絵本のキャラクターと同じでした」
なるべく絵を描いた紙は片付けていたつもりだったが。
自分のうかつさに頭を抱えた。
「絵本を作るようになったのはいつ頃ですか?」
「雨の季節に。気楽に読める本が欲しくて思いついたのです。ノエルには好評で絵本が欲しいと言っていて、ちょうどサンベル地方でもチャリティーイベントがあると知って」
ヴィヴィアは顔を両手で隠して経緯を話した。
恥ずかしくて堪らない。
実は前世で大学時代にイベントで本を作っていた。素人でも作ることができると知り、10冊くらい作り知り合いに配る程度の活動であったが。
「これを売り物にするのは、おかしいですよね」
「そんなことはありません」
何を言っても肯定してくるクリスの言葉でヴィヴィアはますます萎縮してしまった。
「ヴィヴィア、これを本にしましょう」
「ですが、チャリティーで売れなかったら」
「では、少なめの部数にしましょう。残ったら孤児院や修道院に寄付しましょう」
ヴィヴィアは弱々しくこくりと頷いた。
「さ、今日は寝ましょう。明日からパーティーの準備で忙しくなりますよ」
「別に……デビュタントではないのだから大丈夫ですよ」
「デビュタントですよ。私の妻として」
クリスはヴィヴィアの頭を撫でて微笑んだ。
まだまだ恥ずかしくてクリスの顔をまともに見られない。
こんな状況で寝られるわけ……
寝られた。
前もこんなことがあった。
実は3日かけての馬車移動であり、かなり疲れていた。
