捨てられた悪役はきっと幸せになる

 王都ギネヴェールには多くの貴族子女が集まっていた。
 令嬢たちは王城で行われるパーティーでドレスを見繕うのに必死だった。

 シシリアもその1人であった。

「素敵です。お嬢様」

 使用人、ブティックの使用人たちが誉めそやす。

 シシリア・ルフェル。

 治癒魔術の大家、ルフェル子爵家の次女である。

 美しい金色の長い髪、碧眼を持つ理想の美少女である。

 幼い頃に治癒魔術の鑑定を受け、兄ルークと共に治癒魔術を発展することを期待されていた。
 実際、シシリアは去年の疫病におかされた集落へ向かい早くに治療活動をしていた。
 集落からは聖女と謳われ、その功績を認められカリバー王立学園への入学が叶えられた。

 新学期から注目され、シシリアに近づこうという殿方が後を立たない。
 シシリアは彼らを厳選してガゼル伯爵家の令息を今回のパーティーのパートナーにした。

 家柄、財力は申し分なく父からはきちんと留めておくように言われていた。

 私とお母様は満足できていないのだけれど。

 その理由は姉の存在である。
 毒々しい赤い髪に、苔のような緑の瞳は好ましくない。
 それも無能力者で、役立たずの穀潰し。

 そんな姉が公爵夫人になったなんて今も信じられない。

 姉は下品な爺い、ガストロ男爵の後妻になる予定だった。あえて家族で嘲笑う為に婿探しに社交界へ行かせていた。
 運良く年頃の令息との見合い話が舞い降りてもシシリアが握り潰してきた。
 ちょっと可哀想な可憐な少女と思わせるのは得意であり、姉を悪者のように吹聴した。
 手を握り甘えるとコロッと令息は陥落した。

 惨めで可哀想なお姉様。でもお姉様でも貰ってくれる殿方がいるから幸せよね。

 それを楽しみにしながら集落での治癒活動を頑張ってきた。
 勿論、集落でも姉サゲ自分アゲを怠らず集落では可哀想なシシリアとして名を通した。それは治癒活動終了間際まで続けていて、王都へ帰る際も盛大に見送られた。

 汚い集落で、粗末なベッドで過ごす日々とはおさらばだ。
 これも私の人生設計のため。

 カリバー王立学園への入学内定がおり、このまま良き殿方に身染められていくことを夢みていた。
 そしてその夢が叶うと思っていた。

 屋敷にクリス・ゴーヴァン公爵が訪問してきたのだ。

 まさか、私は公爵夫人に?

 胸躍らせたのも束の間、クリスが求める婚約相手は無能力者の姉だった。

 どうして。何かの間違いよ。

 そう思いながらクリスに寄りかかるが、無礼者とクリスに冷淡に睨まれ退席を求められた。
 納得できないシシリアであったが、父に無理矢理追い出された。

 その間に、話は進み父はすっかり上機嫌でクリスの求める通りになった。

 何故、何でよ。
 私の方がふさわしいわよ。

 結婚まで姉を陥れて婚約破棄させてやると計画を練っていたが、姉は婚約話があった翌朝にゴーヴァン家へと迎えられ帰ってくることがなかった。

 結婚式をめちゃくちゃにしてやる!

 そう息巻いていたが、知らないうちに結婚式は終わっていた。
 姉が出て行った1ヶ月後に行われたとか。

 いくらなんでも早すぎない?
 公爵家の結婚でしょ!
 1年間準備するものじゃない!?

 急ぎの結婚式でモーガンの教会で家門内で済ませたという。
 それから姉はモーガンの屋敷で過ごし、ルフェル子爵家は手を出せずにいた。

 シシリアが姉に手紙を書いても、しばらくしたら父に叱られる。
 姉が一度だけ堅苦しい手紙と安っぽいブローチを送ってそれきり音沙汰はなかった。

 納得できなかった。

 シシリアは知らなかった。莫大な契約金と鉱山を条件にヴィヴィアに接触することを禁じられていたことに。

 全く、お姉様もお姉様よ。
 今年は私のデビュタントなんだからブティックを紹介してくれても良いじゃない。
 あー、アリエルのドレスを着たかったな。

 パートナーのガゼル伯爵家令息の紹介で何とか及第点のドレスを身につけられた。
 とりあえず安心した。

「綺麗だよ、シシリア」

 待合室で待機していたアドルフ・ガゼルは顔を赤くしてシシリアを褒めた。

「ありがとうございます。アドルフ様。なかなかブティックが見つからず困っていました」

 シシリアのはにかむと、周りは花が咲いたかの様に華やかになる。
 アドルフも使用人、スタッフ一同どきんと胸を高鳴らせた。

 買い物が終わったら人気の喫茶店でお茶を楽しむことになった。

 会話を楽しみながら人気デザートを頬張りながらシシリアは足りなさを覚えた。

 これで買い物は終わりなんて。

 先程のブティックで一通りのものを揃えられた。靴も、装飾品、扇子もドレスに合わせてもらったが、もしかしたら宝石専門店にもっといいものがあるかもしれない。

 気が利かないのね。

 シシリアがいえばねだっている、はしたないと思うだろう。
 そのあたりを気遣ってほしかった。

 ゴーヴァン公爵様ならきっと色んなお店の商品を見て回ってくれるわ。
 屋敷に招いて1日では終わらないくらいの試着をさせてくれて。

 とはいえ、アドルフはシシリアの周りの殿方の中では1番良い物件である。
 ちょうど諸事情で婚約解消となったばかりで禍根も残さずにすむ。

 私の魅力なら婚約者がいる殿方もパートナーにできるのだけど。

 そうすると学園内の体裁が気になる。
 自分のライバル的存在もいるので田舎集落を救った聖女のイメージを損なう真似は避けたい。

 運がないわ。
 同い年であんな奴がいるなんて。
 以前、修道院での事前活動では大したことなかったのに。

 幼い頃から治癒魔術に優れたシシリアとは対象的に治癒魔術は未熟で足りない面は自分の手でケアに励んでいたのを思い出した。
 没落した伯爵家令嬢、孤児同然に修道院で生活しており後ろ盾もないシシリアの敵にもなりえない娘。

 それが治癒魔術を上達させ、長年の福祉活動を認められ、ゴーヴァン公爵家の奨学生となりカリバー王立学園へ入学した。

 しかも、学園で起きた事件を解決した為一層人々の関心を買っている。

 ちょうどその話題があがる。

「毎年起きる幽霊にあてられた生徒の問題が片付いて良かったよ。これで安心して学園生活を送れる」
「本当ですね」

 思わず頬がひくついたが、シシリアはティーカップを口につけて誤魔化した。

 雨の季節になると学園内に幽霊が現れて、女学生を連れて行く。
 毎年、雨の季節が始まると庭で冷たくなった女学生が見つかり学生たちは幽霊の仕業だと噂し合った。

 結局今年も犠牲者は出たが、いつもと違うのは真相が明らかになったこと。

 実は隠蔽され続けていた殺人事件であった。

 教員が女学生に性的な暴行を加えて終わったら毒を飲ませて庭先に捨てる。
 被害者は平民出身であり、貴族たちが通う学園のレベルについていけずに精神病を患い発狂したのだろうと片付けられまともな捜査が行われなかった。

 実際、加害者の教師はオーサ侯爵家の庶子だった。
 王城で強い発言力を持つ実父と学園長が事件を誤魔化していたのだ。

 そのことを暴いたのはシシリアの同学年のベザリー・モカだった。
 彼女は自分の奨学金援助をしているゴーヴァン公爵家に相談し家門の騎士候補の学生をサポート役にしてもらい身を守った。
 ゴーヴァン公爵家の力で事件は闇に葬られず、加害者は逮捕され庇っていた学園長は罷免、加害者の実父は賠償金を支払い政界から手を引いた。
 問題のオーサ侯爵家は30年の蟄居を言い渡されている。
 王城で権力を有していたオーサ侯爵家の衰退につながるだろう。

 こうして殺人事件は幕を下ろした。

 しばらく学園はお通夜状態であった。
 ようやく体制改善の説明がでて、新しい学園長を迎える話がでたことで学生たちは事件を受け入れた。

「びっくりしたよ。学園が信じられなくなり退学も考えていたけど、新しい学園長にエムリスの塔の賢者がくると知って考えを反故したよ」
「ええ。もしかしたら賢者様から直接教えを受けられるかもしれないから私もどきどきしています」

 エムリスの塔の賢者たち。
 一般の能力者と違うのは、能力関係なくさまざまな属性の魔術を使えることだ。
 その為には複雑な魔術解析をする必要があるが、その解析が常人には耐えられない難易度である。解析して理解しても使用できない者もいて、理解を飛び越えて直感で使用できる者もいる。

 その為彼らを賢者と呼ぶ。

 彼らは表だって活動はしておらず、エムリスの塔に篭りひたすら魔術を研究しつづけている。

 彼らのおかげで魔術は発展してきた為、王族ですら手を出すことができない。
 独立した組織、集落である。

 ルフェル子爵家としてはエムリスの塔に思うところはある。彼らが治癒魔術を解析、改良した影響でルフェル子爵家以外で治癒魔術を使える者がどんどん生まれていってしまった。これでルフェル子爵家の存在感が薄れてしまった。零落の原因である。

 学園長にエムリスの塔の賢者が来るとなれば、シシリアにも考えがある。
 お近づきになり、自分の治癒魔術をさらに開花させることだ。

 エムリスの塔のせいでルフェル子爵家は苦労したのだからそれくらいの面倒をみてもらうくらい当たり前よね。

 私の魅力で陥落させてしまえばいいのだ。

 ガゼル伯爵家令息の恋人という立場はまだキープしているが、学園長となる賢者の方が有力だ。

 お爺ちゃん先生と思ったら、絶世の美男子というじゃない。

 学園見学に来た学園長になる予定の賢者を案内同席していた学生からの噂を聞いてシシリアはほくそ笑んだ。
 絶世の美男子、賢者が相手となればシシリアの自尊心は満たされる。
 ゴーヴァン公爵夫人になった姉をさらに追い落としてやる。

 絶対私のものにしてやる。