放課後、非常階段で。

まだ青空で、夏の爽やかな風が心地いい日だった。

「...これから会うのも少なくなっちゃう前に、はぐして」

と勇気を出して言ってみた。

のぞむくんは私のお願いを聞いて、照れたようにぎこちなくも大きな腕にだきしめてもらって、安心する。

のぞむくんの鼓動と体温に安心したり、ドキドキしたり、ねむくなったりして、忙しかった。

「...るなちゃん、」

のぞむくんの声が響く。顔を向けると、彼は耳まで赤くしていた。

「近いね」

抱きしめられたまま、少しだけ時間が止まったみたいに感じる。

のぞむくんの体温が、じんわりと私の胸まで伝わってくる。

のぞむくんが少しだけ腕をゆるめる。

「……ごめん、そろそろ、」

その声に、私も小さく頷く。

(ああ、もう離れちゃうのか⋯)

互いに少し距離を取りながら、照れくさそうに顔を見合わせる。

「……あ、あの……部活、がんばって」

「るなちゃんも、気をつけて帰ってね」



階段の一段ずつが、なんだか急に遠く感じる。

互いに振り返らず、でもちらっと目だけで確認する。

恥ずかしさで胸がぎゅっとなるけれど、心の奥は少し軽くなっていた。

「……じゃあ、またね」

「うん、またね」

その言葉で、二人はゆっくりと別々の道へ歩き出す。手を振るわけでもなく、振り返りもせず。

でも、その短い別れの間にも、さっきの時間の温もりが心にじんわりと残っていた。

(……やっぱり、のぞむくんのこと好きなんだ)

思わず自分の胸に手を当てる。
夏の風が、少しだけ切なく、でも優しく吹き抜ける。