放課後、非常階段で。

望side───

玄関を開けた瞬間、先に部屋に入っていた母の声が響く。

「望、……あの子とこんな時間まで、何をしていたの?」

その声には怒りが含まれているけれど、ただの叱責というより、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。

(また…こうして母さんに責められるのか)

胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

「成績が下がったら、どうするつもりなの?友達ごときで時間を浪費するのは許せないわ。」

俺はただ黙るしかなかった。言葉を返す余裕がない。

(その分家で勉強してるんだけどな⋯ただ俺の事が嫌いなだけじゃないのか)

母の机を叩く音が、静かな怒りをさらに強調する。

「あなたは……本当に自分のことしか考えていないの?
私の言うことがわからないの?何とか言いなさい、望」

心の中で、俺は静かに繰り返す。

(わかってる。母さんの気持ちはわかってる。でも……どうしても、あの子のことを優先したい)

手を握りしめて、心の奥に小さな決意を置く。

(俺は……誰のために生きているんだろう)

母の声は鋭いけれど、怒号ではなく、理不尽さを含んだ指摘として胸に響く。

深呼吸をして、自分を整える。

「...ずっと黙ってるのね。わかった。これからあなたのスマホに位置情報アプリを入れるわ。」

母さんが淡々と続ける。

「学校・部活が終わったらすぐ帰ること。帰ってこないと、スマホは解約して、ギターは捨てます。」

(⋯俺にとって、スマホもギターも、ただの物じゃない。あの子と繋がる唯一の手段なのに)

胸の奥が痛く、喉の奥がぎゅっと締まる。

それでも、母の圧に抗う勇気はまだなく、ただ静かに、握った手の力を弱めるしかなかった。

「わかりました。」

そう言い、自室へ戻った。
ドアを閉める瞬間、胸の奥で少しだけ息苦しさを感じた。

その晩、俺は腹の痛みを感じて泣いた。