放課後、非常階段で。

「母さん⋯」

と、見る見るうちに望くんの顔が真っ青に、恐怖に歪められた。動けないようだった彼の手を引き、路地裏に連れていき、背中をさする。

暫く、のぞむくんのひゅー、ひゅー、と苦しそうな音と、沈黙が流れる。


少し落ち着いた頃、声をかけた。

「⋯大丈夫?」

ふぅ、と息をつき、彼は答えた。

「⋯今日は、母さんに嘘をついて来たんだ」

彼が続ける。

「母さん、俺が放課後勉強してないと気が
済まないらしくて。

バレたら、また家でなんて言われるか想像しただけで
動けなくなってた、ごめん」

壁に背を付けて、うつむいた彼の前に立つ。

「そっか⋯嘘ついてまできてくれてありがとう

お母さんのことも、話してくれてありがとう」

私は迷わず、望くんの手を握った。
いつもなら、彼は優しい嘘をつく。

でも今は、私の手を握り返してくれた。

それが何だか、嬉しかった。


「るなちゃん、早速迷惑かけて、本当にごめん」

「いいってば。私がいいって言ってるんだから」


私は彼が落ち着くまで、そばにいた。