追想の

今日も教科書とノートの重みを肩に感じながら、学校の門を出た。

期末試験が近いせいで、ここ数日は家と学校を往復するだけの毎日だ。

友達と話す余裕もなく、頭の中は公式と単語でいっぱいだった。

「……たまには違う道で帰ろうかな」

ふと、そんな気分になった。

いつもなら駅へ向かう大通りをまっすぐ歩くけど、校舎裏へ続く細い路地に足が向いた。

近道になるかもしれない──
 
路地は思ったより静かで、人の気配がない。

夕方の風がひんやりと頬を撫でる。

そのときだった。

視界の端で、淡い光が揺れた。
 
「……あの店何?」

吸い寄せられるように歩いていくと、古びた木扉が現れた。

見覚えのない店だった。

いや、こんな場所に店なんてあっただろうか。

学校周辺の道なのに、記憶が曖昧になる。

 扉の上には、小さな看板がかかっていた。

 ──《オルゴール調律店》

 美月は思わず息を呑んだ。

 気づけば、手が勝手に扉へ伸びている。

 触れた瞬間、胸の奥がふっと軽くなるような、不思議な感覚が走った。

 “オーラ”に引き込まれるように。

 気づいたときには、扉は静かに開いていた。

 中は薄暗く、棚には無数のオルゴールが並んでいる。

 どれも古く、どれも美しい。

「いらっしゃいませ」

 奥から現れたのは、白いシャツに黒いベストを着た青年だった。

年齢は二十代前半くらいだろうか。柔らかな笑みを浮かべているのに、どこか影が差しているようにも見える。

 美月は思わずぺこりと頭を下げた。

「あ、えっと……初めて来たんですけど」

「ええ、存じていますよ」

 青年は穏やかに微笑んだまま、すっと距離を詰めてくる。

 その言い方に、美月は一瞬だけ違和感を覚えた。

「何か、お探しですか?」

「いえ、特に……ただ、外から見えたので」

「そうですか。ではゆっくりご覧ください。」

 青年は棚の方へ手を向ける。

 その仕草は丁寧で、古い映画の登場人物のようだった。

 美月は棚に近づき、そっと並んだオルゴールを見つめた。

「……すごい。こんなにたくさん」

「ええ。ここにあるのは、どれも特別な音を持つものばかりです」

 青年の声は優しい。

「特別……?」

「はい。たとえば──」

 青年は棚の中央に置かれた、青白い光を帯びたオルゴールに手を伸ばした。

「これは《追想のラプソディー》といいます」

 その名を聞いた瞬間、美月の胸がかすかにざわついた。

 理由はわからない。

ただ、心の奥に触れられたような感覚だけが残る。

「触れてみますか?」

 青年は微笑んだまま、美月にそっと差し出した。

 美月は息を呑んだ。

 触れてはいけない気がするのに、触れずにはいられない。

 指先が、ゆっくりとオルゴールへ伸びていく。

その瞬間に、