「服、下着、靴下…」
布の黒い仕分けポーチに、無心で荷物を詰め込んでいると、「樺音、おばあちゃんち行くならお土産買っていきなさい」と母親が口をはさんできた。
「お土産って何買えばいいの?」
「叶匠寿庵のお菓子でも。まあ、なんでもいいんじゃない?」
なんでもいいが一番困る。
手元の荷物にため息を落とすと、「お母さん、お風呂行くからね」と母親がその場から退散した。
リビングの扉を閉めた母親の後ろ姿を見ていると、自分の心の中に『明日から私は人生初のひとり旅をするんだ』という実感がむくむくとわいてきた。
無心で荷物を詰めていると、物置部屋で片づけをしていた父親がリビングに戻ってきた。
「樺音がひとり旅か…そりゃ父さんもダンディなイケオジになるはずだ」
「お父さんはイケオジなの?ダメオジな気がするけど」
仕分けポーチのファスナーを閉じ、中学の修学旅行で買った水色のキャリーケースにポーチを放り込みながら軽口をたたく。
「ひどいな、樺音。父さんは阿部寛もびっくりなイケオジなのに」
「えー…」
口を尖らせると、「気を付けて行ってこいよ」と父親が私の背中を力強く叩いた。



