ーもうすぐ彼、榊さんが来る時間だ。
おそらく気付かれていないから、
ソワソワする必要ないんだけど。
私は何度も時計を確認しては、
緊張していた。
「レジお願いします」
ー榊さんの声だ。
なんとなく顔が見れずに、
いつもより下を向いてレジを打った。
「え、秋元さん?
秋山さんではなくて?」
榊さんの声を聞いて驚いた。
ー私のこと覚えてたの!?
思わず顔をあげると、
私の名札を見ていたようだった。
お見合いのときは気付いていなかったのに。
私は上手い返答もできずに困っていると、
榊さんは私が百合子ではないことに気付いたようだった。
「あなたは、秋山百合子さんではないんですね?」
「…はい」
上手く誤魔化すこともできず、
肯定してしまった。
沈黙が怖い。
当たり前だが、怒っているのが伝わってくる。
「どんな理由があってお見合いに来たのかは知りませんが、
人の心をもてあそんだり、
騙すようなことはしない方が良いと思いますよ」
榊さんの顔を見ると、
いつもの笑顔ではなく、
軽蔑するような表情をしていた。
ー騙してお見合いにいっていたんだ、
当たり前だ。
そう思いながらも、
勝手に泣きそうになるのを堪えながら、
「ごめんなさい」と言って、
レジを早く終わらせるよう手を動かした。
榊さんはいつもの笑顔で「ありがとう」との発言が初めてなく、
レジが終わるなり、さっさと歩いていってしまった。
ー最悪だ。
憧れの人に嫌われてしまった。
それだけでなく、
百合子にも迷惑をかけてしまう。
私はすぐさま休憩に入らせてもらい、
百合子に事実をメールで伝えた。
ーこんなことになるなら、
お見合い受けなきゃ良かったな…
泣きそうになるのを堪えて、
また仕事に戻った。


