のみこんだのは


別れ話は10分にも満たなかった。
好きだから、愛しているから別れるんだと。
そんなふざけた別れ話で、カフェじゃなかったら手元のコップを掴んでいただろう、生憎と中身は殆ど無かった。
それにすら腹が立ってしょうがなかった。

あの日、言えなかった言葉を反芻しながら喫むタバコは、甘いフレーバーのはずなのにやたらと苦く感じた。
タバコを吸えば、無口なあの人の隣りに並ぶ事もいいよって言って貰える気がして。
あの人の真似をしてタバコを吸いはじめた。
タバコを「喫む」と、そう言っていたあの人。
おばぁちゃんがそう言っていたらしい。
時折り気まぐれに話してくれる家族の話は、無性に私を喜ばせた。
あの人の銘柄は私には苦くて、でもタバコを吸う姿がやたらと綺麗なあの人に憧れて
甘いフレーバーの銘柄をわざわざ調べて吸って、いや、「喫んで」みた。
初めて喫むタバコは、成人して飲んだお酒と同じくらい、期待し過ぎてしまって喉が焼ける様で、美味しく感じなかった。
そんな私を見ながら薄く笑うあの人に「まだまだ子どもだね。」と、そう言われた気がした。
吐いた煙が混ざって消える光景が
やたらと記憶に残って、離れてはくれない。
いつかのあの人が飲み込んだ言葉も私は知らない、私たちは知らないまま言葉も、煙も全部"のみ込んで"さようならをした。
あの人は一度も私に煙を吐いてくれなかった。