僕の素顔でも、すぐに僕だってことを気がついてくれて嬉しさがありつつも、少し焦る。
こ、こんな状況じゃなかったら嬉しいのに……っ。
それに一ノ瀬さんと仲のいい高橋さんは僕のファンみたいで、よく一ノ瀬さんに僕の話をしているからきっとモデルの「陸斗」だということはバレているだろう。
これまで僕の正体がバレたときに穏便に事が収まったことがない。
だから今回もそうなのかと思って、何が来るのか思わず身構えるけど、一ノ瀬さんは微動だに動かない。
「あ、あの…い、一ノ瀬、さん……?」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事してて……」
考え事……どうやって僕の正体をネットに晒そうか…とか考えられてたらどうしよう……っ。
あぁ……鈴木さんに謝らないと……。
そう思いながらも、”もしかしたら”の可能性にかけて口を開く。
「……あ、あのっ!い、今見た事は、その…誰にも言わないで貰えると、嬉しい、です……」
なぜだか一ノ瀬さんの顔を見ることができなくてうつむきながらお願いすると、頭上から一ノ瀬さんの笑い声が聞こえてきて思わず顔を上げる。
「大丈夫だよ、誰にも言わない」
最初、一ノ瀬さんが何を言ったのかわからなかったけど、彼女の笑顔で少しずつ状況が飲み込めてくる。
言わない代わりに…という言葉も警戒したけど、そんな事を言う素振りは微塵も見せない。
「言う必要も無いしね」
それどころか、ニコッと笑いかけてくれる一ノ瀬さん。
「ほ、ほんとですか……!あ、ありがとう、ございますっ」
そうだ、僕が好きになった一ノ瀬さんは人が困るようなことは絶対にしない人だ。
それなのに、勝手に言いふらされると誤解して……。
ごめんなさい、一ノ瀬さん……。
そう心のなかで届かない謝罪をしていると、突然一ノ瀬さんが僕の席の前に座る。
「え…あ、あの……?」
一ノ瀬さんがまだ目の前にいる事実と、自分も座るべきなのかを悩みながらモタモタしていると、やっぱり一ノ瀬さんはくすくすと笑いながら「座って?」と言うように促してくる。



