私は一瞬だけ迷ってから、ハンカチを手に取る。
「今日の式場で……」
言葉を選びながら、そっと広げる。
中にあったのは、一枚の花びらだった。
「片づけのときに、足元に落ちていて」
自分でも、なぜ拾ったのかわからない。
「捨てる前の、ほんの一瞬だけ、きれいで」
言い終えてから、少しだけ視線を伏せた。
彼は何も言わず、花びらではなく、私の手元を見ていた。
「……いいですね」
静かな声。
「祝福の“あと”って、
こういうふうに残ること、あります」
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
私は慌ててハンカチを閉じ、バッグに戻した。
「すみません、変なものを……」
「いいえ」
彼は首を振る。
「大切にしてるものだと思いました」
その言葉に、息が詰まる。
私はグラスを置き、ようやく席を立った。
夜は、来たときよりも、少しだけ冷えている。
「……ごちそうさまでした」
「こちらこそ」
会計を済ませ、扉に手をかけたその時。
「……これだけ」
背中に、低い声が届く。
振り返ると、カウンターの上に、一枚の名刺が置かれていた。
裏向きのまま。
「また来たいと思ったら」
それだけ言って、彼はもうこちらを見ていない。
私は一瞬迷ってから、その名刺を手に取った。
バッグの中。
白いハンカチの上に、そっと重ねる。
まだ、表は見ない。
祝福のあとに残ったものを、
今はそっと、しまっておきたかった。
