外に出ると、夜の空気がひんやりと肌に触れた。
街の光はまだにぎやかだけれど、私はその輪から少しだけ外れて歩く。
歩きながら、ふと――いつも通らない路地に足を向けていた。
気まぐれというよりも、今日の一日の疲れと余韻に、少しだけ違う景色が欲しかったのかもしれない。
歩幅はゆっくり。誰にも見せない疲れと、言葉にできない思いを抱えたまま。
すると、角を曲がった先に、控えめだけれど温かい光が漏れる店があった。
——Bar After。
入り口の木製の扉には小さな灯りが揺れている。
立ち止まった瞬間、なぜか足が勝手に進む。
偶然見つけたこの店は、今日の私に必要な場所のように思えた。
扉を開けると、木の香りと静かなジャズが迎えてくれた。
カウンターには、数人の客が静かに座っている。
その奥――背筋を伸ばしてグラスを磨く男性がいた。
顔立ちは整っていて、目立つわけではないけれど、光に照らされた横顔が印象的だ。
動きは静かで、無駄がなく、自然に周囲に溶け込んでいる。
ちらりと視線が合った瞬間、無言のままでも、ほんの少しだけ気配が残るような存在感だった。
