その夜、ひかりはもう一度、Bar Afterの扉を押した。
理由は、はっきりしている。
仕事として、正式に詰めるため。
そう決めてきたはずなのに、
中に足を踏み入れた瞬間、少しだけ呼吸が浅くなる。
カウンターの奥で、彼はグラスを並べていた。
視線が合う。
ほんの一瞬。
それだけで、来た理由を察したみたいに、彼は頷いた。
「こんばんは」
「こんばんは」
席に座ると、
いつもより早いタイミングで、グラスが置かれる。
「今日は、確認ですね」
言い切りではない。
でも、外れてもいない。
「……はい」
ひかりはバッグから、資料を一枚だけ取り出した。
披露宴の進行表。
必要な部分に、付箋が貼ってある。
「正式にお願いしたくて」
そう言うと、
彼はようやく、グラスを拭く手を止めた。
「日程と時間です」
カウンター越しに、紙を差し出す。
「披露宴の中盤で、二時間ほど。
軽めのカクテルが中心です」
彼は目を落とし、黙って目を通す。
その沈黙が、
判断の時間だとわかるのが、少しだけ安心だった。
「……問題ありません」
短く、でもはっきり。
「当日は、こちらから伺います」
ひかりは、息を吐く。
「ありがとうございます」
その言葉に、
彼は少しだけ首を振った。
「こちらこそ。
ただ——」
「連絡が取れた方がいいですね」
それは、事務的な一言だった。
でも、ひかりの指先が、わずかに止まる。
「……そうですね」
彼は、ポケットから名刺入れを出す。
前に渡されたものとは、違う。
ペンを取り出し、
名刺の余白に、何かを書き足す。
カウンター越しに差し出されたそれを、
ひかりは両手で受け取った。
電話番号と、
短いメモみたいな文字。
「直通です。
仕事の件だけで構いません」
理由は、はっきりしている。
仕事として、正式に詰めるため。
そう決めてきたはずなのに、
中に足を踏み入れた瞬間、少しだけ呼吸が浅くなる。
カウンターの奥で、彼はグラスを並べていた。
視線が合う。
ほんの一瞬。
それだけで、来た理由を察したみたいに、彼は頷いた。
「こんばんは」
「こんばんは」
席に座ると、
いつもより早いタイミングで、グラスが置かれる。
「今日は、確認ですね」
言い切りではない。
でも、外れてもいない。
「……はい」
ひかりはバッグから、資料を一枚だけ取り出した。
披露宴の進行表。
必要な部分に、付箋が貼ってある。
「正式にお願いしたくて」
そう言うと、
彼はようやく、グラスを拭く手を止めた。
「日程と時間です」
カウンター越しに、紙を差し出す。
「披露宴の中盤で、二時間ほど。
軽めのカクテルが中心です」
彼は目を落とし、黙って目を通す。
その沈黙が、
判断の時間だとわかるのが、少しだけ安心だった。
「……問題ありません」
短く、でもはっきり。
「当日は、こちらから伺います」
ひかりは、息を吐く。
「ありがとうございます」
その言葉に、
彼は少しだけ首を振った。
「こちらこそ。
ただ——」
「連絡が取れた方がいいですね」
それは、事務的な一言だった。
でも、ひかりの指先が、わずかに止まる。
「……そうですね」
彼は、ポケットから名刺入れを出す。
前に渡されたものとは、違う。
ペンを取り出し、
名刺の余白に、何かを書き足す。
カウンター越しに差し出されたそれを、
ひかりは両手で受け取った。
電話番号と、
短いメモみたいな文字。
「直通です。
仕事の件だけで構いません」
