——最後のゲストを見送り、会場の扉が閉まった。
さっきまで満ちていた音は、嘘みたいに消えている。
テーブルの上には、片づけられたグラスの跡。
花びらが一枚、床に落ちていた。
踏まれてしまう前に、私はそれを拾い上げる。
理由は、特にない。
ただ、そこにあったから。
指先に残る、かすかな柔らかさ。
私はそれを、ハンカチにそっと包んだ。
「お疲れさまでした」
スタッフ同士で交わすその言葉も、どこか小さい。
大きな一日が終わったあとの、決まりきった合図だ。
私は進行表を閉じて、深く息を吐いた。
ようやく、肩の力を抜いてもいい時間。
控室に戻る途中、チャペルの前で足を止める。
昼間の光はもうなく、白い建物は影の中に沈んでいた。
ここでは、もう誰も誓わない。
拍手も、音楽も、今夜は戻ってこない。
それでも、建物は変わらずそこにある。
明日になれば、また誰かが「永遠」を口にする場所。
私は鍵のかかった扉に、そっと視線を残した。
——今日も、終わった。
その言葉を、胸の中で静かに繰り返す。
腕時計を見る。
帰り支度をするには、ちょうどいい時間だ。
