祝福のあとで

翌日の午前中。

 ひかりは、資料を揃えながら、進行表に目を落としていた。

 披露宴中盤。
 歓談。
 バーカウンター使用。

 昨夜の会話が、文字の隙間から静かに浮かび上がる。

 ——外部スタッフ。

 それは、特別な判断じゃない。
 珍しいことでもない。

 そう言い聞かせながら、
 ひかりはスケジュールを一つ、確定させた。

「神崎さん」

 声をかけてきたのは、あきだった。

 会議室の入口に立ち、
 タブレットを片手に、いつもの落ち着いた表情。

「バー演出の件、進めてます?」

「はい。外部スタッフで調整する方向です」

 即答だった。

 迷いを挟む余地はない。

「了解です」

 あきは頷き、画面を確認する。

「こちらとしても、その方が安心です。
 当日は、想定外が起きやすいですから」

「そうですね」

 言葉を交わしながら、
 ひかりは、自分の声が落ち着いていることに気づいた。

「ちなみに」

 あきが、ふと顔を上げる。

「もう、目星はついてますか?」

 一瞬だけ、間が空く。

 ほんの一拍。
 考えるふりをする必要はなかった。

「……はい」

「知り合いですか?」

 問いは軽い。
 業務的な確認。

 ひかりは、少しだけ言葉を選んでから答えた。

「仕事で、お願いしたことのある方です」

 嘘ではない。

 あきは、それ以上踏み込まなかった。

「それなら問題ないですね」

 むしろ、納得したように頷く。

「信頼できる人がいるなら、その方がいい」

 その言葉を聞いたとき、
 ひかりの胸の奥で、何かが静かに定まった。

 あきは、
 今も、正しい判断をする人だ。

 でも。

 その「正しさ」に、
 もう戻ろうとは思わなかった。

「詳細が決まったら、共有してください」

「わかりました」

 あきは軽く会釈して、部屋を出ていく。

 ドアが閉まったあと、
 ひかりは一度だけ、深く息を吐いた。

 仕事として、正式に外部へお願いする。

 それは、
 誰かを選ぶことと、同じだった。

 ひかりはデスクに戻り、
 バッグの中にある名刺の存在を思い出す。

 ——今夜、もう一度。

 確認しなければならないことが、できてしまった。