祝福のあとで

二度目に会ったのは、初回の打ち合わせから一週間後だった。

 確認事項の共有と、演出内容のすり合わせ。
 名目はそれだけ。

 それでも、予定表に「ヴェリテ・ブライダル」と記された時間が近づくと、
 ひかりは自然と背筋を伸ばしていた。

「お疲れさまです」

 先に声をかけてきたのは、あきだった。

 前回と同じ、仕事用の表情。
 でも、目が合った瞬間だけ、ほんの少しだけ柔らぐ。

「お疲れさまです」

 それ以上、言葉は続かない。

 会議室のテーブルを挟んで向かい合う。
 資料を広げる音が、静かに重なる。

「席次、こちらで最終案を出しました」

 あきが差し出した紙を、ひかりは受け取る。

「ありがとうございます。動線も問題なさそうですね」

「新郎側の親族が多いので、導線は詰めています」

 説明は簡潔で、無駄がない。

 ——変わらない。

 あの頃から、彼はずっとこうだった。
 先回りして、最短で、正解を選ぶ。

「ただ」

 ひかりは一枚、別の資料を指差した。

「この演出、当日の進行が少しタイトになります」

「問題ありますか」

 すぐに返ってくる問い。

「進行自体は問題ありません。でも、余白がなくなります」

「余白、ですか」

「新郎新婦が、呼吸できる時間です」

 一瞬、あきが黙る。

 否定ではない。
 考えている、という間。

「……なるほど」

 やがて、ペンを動かす。

「じゃあ、ここを削って、こちらに回しましょう」

 判断は早い。

「ありがとうございます」

 言葉を交わしながら、
 ひかりは、ふと気づく。

 この人とは、
 昔も、今も、
 仕事の話なら、何の齟齬もない。

 だからこそ。

 プライベートに踏み込まなかった理由も、
 今なら、少しだけわかる気がした。