「まず、全体のイメージを伺ってもよろしいでしょうか」
私が言うより先に、あきが言った。
自然な進行。
場を回す声。
新郎新婦が安心したように頷いて話し始める。
理想の雰囲気。
ゲストへの気遣い。
料理へのこだわり。
私はメモを取りながら、必要なタイミングで補足する。
「会場側として確認させてください。こちらの演出は——」
互いの言葉が重ならない。
重なりそうになる直前で、どちらかが引く。
——息が合う。
そう思ってしまうのが悔しい。
それは恋じゃない。
たぶん、同じ業界で、同じように段取りを組む人間同士だからだ。
打ち合わせが半分ほど進んだ頃。
新郎が少し言いづらそうに口を開いた。
「バーカウンター、披露宴中に使えたりしますか?」
新婦が慌てて付け足す。
「軽く、カクテルとか……友人がそういうの好きで」
私は頷いた。
「併設バーはあります。ただ、通常は式場スタッフが対応します」
そこで、あきが視線を上げた。
「当日のバー対応、こちらで手配した方がいいですか?」
言い方が、自然すぎる。
私は一瞬だけ、言葉を探した。
——彼は、何も知らない。
私がBar Afterに通っていることも。
そこにいる人に助けられたことも。
当然だ。
これは仕事の席だ。
「式場側で対応できます。ただ、内容によっては——」
私は言葉を選ぶ。
「ご希望のドリンク内容が多い場合、外部スタッフと連携した方がスムーズです」
あきは短く頷いた。
「了解です。こちらで確認します」
あの頃から、変わらない。
決めると早い。
迷うより先に段取りを組む。
新郎新婦の表情が明るくなる。
頼もしい担当者。
“任せられる人”の顔。
私は視線を手元の資料に落とした。
それでも、耳は勝手に拾ってしまう。
あきの言葉の端に混ざる、ほんの少しの余裕。
業界の大手にいる人間の、慣れ。
羨ましいわけじゃない。
比べる必要もない。
そう思うのに、
胸の奥が、わずかにざわつく。
