祝福のあとで


 三日後。

 サロンの窓から入る光は柔らかく、
 白いテーブルクロスの上に影を落とす。

 私は席を整え、資料を並べ、ペンを揃える。
 いつも通り。
 仕事の準備は、感情の入り込む余地を奪ってくれる。

 定刻の五分前。

 扉が開いた。

 先に入ってきたのは新郎新婦だ。
 二人とも少し緊張した顔をしている。
 初回打ち合わせのあの空気。

「本日はよろしくお願いします。ルミエールの神崎です」

 笑顔は作れる。
 自然に声も出る。

 新郎新婦が席に着き、
 そのあとに続いて、もう一人。

 スーツの肩のラインがきれいで、
 歩幅が迷いなく、
 視線が空間を測るように動く。

 私は顔を上げた。

 そして、確信する。

 ——あきだ。

 背が少し高くなった。
 髪は短く整えられている。
 頬が細くなって、社会人の顔になっている。

 でも、目だけは変わっていない。
 まっすぐで、理性的で、少しだけ結論を急ぐ目。

 彼もこちらを見て、一瞬だけ止まった。

 驚きは、すぐに隠れる。
 隠すのが上手い。

 そのまま口角を、仕事用に持ち上げる。

「本日はよろしくお願いします。高橋です」

 声も変わっていない。
 落ち着いた低さと、丁寧な言葉選び。

 私は、同じように頷いた。

「よろしくお願いします」

 それだけ。

 名前を呼ばない。
 昔の呼び方を口にしない。
 私の中で“あき”と呼んでいた部分を、仕事が押さえつける。

 それでいい。

 この席は、過去を持ち込む場所じゃない。

 新郎新婦の希望確認が始まる。