祝福のあとで

その案件が入ったのは、月曜の朝だった。

 チャペル・ド・ルミエールの事務所は、いつも通り慌ただしい。
 電話が鳴り、プリンターが唸り、スタッフの声が交差する。

「神崎さん、外部提携の件、入ってます」

 デスクに資料が置かれる。
 表紙に大きく印字された企業名を見た瞬間、私は一度だけ呼吸を止めた。

 ——大手ブライダル企業「ヴェリテ・ブライダル」

 業界では誰もが知っている。
 規模も、件数も、広告の強さも。

 その企業が、ルミエールを会場として使う。
 新郎新婦は「外部プロデュース」を契約しているらしい。

 つまり、担当は私ひとりではない。

 式場のプランナーである私と、
 外部プロデュース会社の担当者が、同じ一組を挟んで並ぶ。

 いつもの仕事より、段取りが増える。
 確認事項が増える。
 すれ違いが起きれば、当日の空気にそのまま影響する。

 私は資料を開いて、目を走らせた。

 新郎新婦の名前。
 希望の進行。
 ゲスト人数。
 演出。
 持ち込み。

 そして、最後に。

 外部担当者の欄。

 担当:高橋 秋忠
 連絡先:——

 文字が視界に入った瞬間、
 耳の奥が、ほんのわずかに熱くなる。

 同姓同名かもしれない。
 珍しくはない。

 でも、読みが勝手に頭の中で先に決まる。

 あきただ。
 あき。

 私はページをめくる指を、いったん止めた。

 ——落ち着け。

 仕事だ。

 そう言い聞かせて、資料を閉じる。

 予定表を見ると、初回の顔合わせは三日後。
 午後一時。
 場所は、ルミエールの打ち合わせサロン。

 その時間帯だけ、やけにくっきりと浮いて見えた。