祝福のあとで

 二杯目を頼むと、
 彼は何も言わずに頷いた。

 確認も、聞き返しもない。

 氷を入れる音が、
 さっきより、少しだけ軽い。

「……覚えてますね」

 私が言うと、
 彼は手を止めずに答える。

「毎回、同じですから」

「それでも」

 言いかけて、言葉を切る。

 覚えていること自体を、
 当たり前みたいに言われるのが、
 少しだけ、照れくさしかった。

 二杯目は、
 一杯目より、ゆっくり飲んだ。

 時計を見る回数も、
 自然と減っている。

「今日は、長めですね」

 彼が、ふいに言う。

 責める調子じゃない。
 確認するみたいな声。

「……そうかもしれません」

「大丈夫ですよ」

 それだけ言って、
 グラスに視線を戻す。

 引き止めない。
 でも、追い出さない。

 その距離が、
 今の私には、ちょうどよかった。

 気づけば、
 閉店まで、あと少しだった。

「そろそろですね」

「はい」

 席を立つと、

「お疲れさまでした」

 いつもより、
 少しだけ柔らかい声。

「……ありがとうございます」

 外に出ると、
 夜の空気が、少し冷たい。

 それでも、
 足取りは、軽かった。

 次はいつ来るかなんて、
 考えていないはずなのに。

 気づけばもう、
 次の予定を、
 頭のどこかで数えていた。