祝福のあとで

 Bar Afterのカウンターは、
 その日も、静かだった。

 腰を下ろすと、彼が言う。

「今日は、早いですね」

「はい。珍しく」

「そういう日、ありますね」

 いつもより、
 やり取りが一つ多い。

 彼がグラスを置く。

「今日は、少し甘めにしてます」

「わかります」

「最近、疲れてます?」

「……そんな顔してます?」

「少しだけ」

 言い切らないところが、
 彼らしい。

「式が、立て続けで」

「忙しい時期ですか」

「そうですね。でも、嫌いじゃないです」

「向いてます」

 即答だった。

 私は、少しだけ驚く。

「どうして?」

「段取りが崩れても、
 顔に出ませんから」

「それ、褒めてます?」

「かなり」

 初めて、
 小さく笑った気がした。

 それを見て、
 胸の奥が、わずかに跳ねる。

「……お仕事は?」

「夜が本番なので」

「休みは、昼なんですね」

「だいたい」

「不思議です。昼と夜が逆で」

「慣れますよ」

 少し間があいて、

「ひかりさん」

 名前を呼ばれて、
 思わず視線を上げる。

「無理は、しないでください」

 それだけ。

 理由も、
 続きもない。

「……ありがとうございます」

 言葉にすると、
 思っていたより近かった。

 グラスが空になる。

 今日は、
 二杯目を頼んだ。

 それが、
 いつもより長くいられた理由かもしれない。