時計を見る。
思っていたより、時間が経っている。
「そろそろ……」
「はい」
引き止められない。
でも、急かされもしない。
「あの、お会計は……」
「……いらないですよ」
困らせないみたいに、彼は首を振った。
「さっき、カフェで」
一拍置いてから、続ける。
「あれは、この間のお礼なので、払います」
言い切ってから、少しだけ間を置く。
「……また来たいから」
彼は何も言わず、短く頷いた。
席を立つと、
「今日は、ありがとうございました」
彼が、少しだけ視線を上げる。
「こちらこそ」
扉を開ける前、
私は一瞬だけ立ち止まった。
でも、振り返らなかった。
夜の空気は、昼よりも静かで、
胸の奥が、妙にあたたかかった。
