祝福のあとで

 休日の午後、駅前は思っていたより人が多かった。

 ひかりは一人でカフェにいた。

 特別な予定はない。
 ただ、家に帰るには少し早かった。

 コーヒーを一口飲んだ、そのとき。

 ドアの開く音がして、
 視界の端に、見覚えのある姿が映った。

 ——あ。

見覚えのある横顔だった。

 気づいたのは、同時だった。

 「申し訳ありません。
 こちら、相席でもよろしいでしょうか」

 店員の声に、
 二人とも一瞬、言葉を探す。

「……どうぞ」

「……大丈夫です」

 同時だった。

 テーブルに置かれたカップの音が、
 思っていたより近い。

 「……お休みなんですね」

 先に口を開いたのは、彼だった。

「はい。特に予定もなくて」

「そうですか」

 それだけ。

 カップを持ち上げる仕草が、
 さっきより、少しだけゆっくりになる。

 言葉は少ないのに、
 不思議と、落ち着く。

 同じテーブルに座っているのに、
 視線は、無理に合わせない。

 それが、
 なぜか、心地よかった。

 カップの中身が、少しずつ減っていく。

 テーブル注文の店で、店員が伝票を置いていった。

 私はそれを見て、特に迷うこともなく手を伸ばす。

「……あの」

 彼の声が、少し遅れてかかる。

「この間のこともありますし」

 言い訳みたいに聞こえないように、淡々と言った。

 彼は一瞬だけ、言葉を探してから、小さく息を吐く。

「ありがとうございます」

 それ以上、止められることはなかった。

 会計を済ませ、店を出る。

 外は、少しずつ夕方に近づいていた。

「このあと……」

 歩き出しかけたところで、彼が足を止める。

「もし、よければ」

 こちらを見るけれど、視線は、強くない。

「夜は、仕事なので」

 一拍、置いてから。

「オープン前なら、少しだけ」

 誘いというより、選択肢を差し出すみたいな言い方。

 私は、少しだけ考えてから、頷いた。

「……少しだけなら」

 彼は、それ以上何も言わず、歩き出す。

 約束というほどのものでもないのに、
 胸の奥が、静かに落ち着いた。