祝福のあとで


 Bar Afterの灯りは、まだ落ち着いた色をしていた。

 営業前の時間帯。
 仕込みのために、あの店のバーテンダーがいる可能性は高い。

 扉を開けると、
 カウンターの奥で、彼が静かに作業をしていた。

 氷を整える音。
 グラスを並べる手。

 無駄のない動きが、
 いつもより少しだけ頼もしく見える。

「……すみません」

 声をかけると、
 カウンターの中の彼が、顔を上げた。

 一瞬だけ、私を見る。

 驚きはない。
 でも、理由を待つ目だった。

「明日、結婚式があって」

 私は、余計な前置きをしなかった。

「式場併設のバー担当が、急きょ入院になってしまって
 代わりのスタッフが、見つからないんです」

 彼は、すぐには答えない。

 ただ、手を止めて、
 状況を整理するように視線を落とす。

「時間は?」

「披露宴中、二時間ほどです」

「人数は」

「五十名弱」

 質問は、必要なことだけ。

 私は、すべて事実で答えた。

 少しの沈黙。

 それから、彼は短く息を吐く。

「……行けます」

 理由は、言わなかった。

 条件も、対価も、聞かない。

 ただ、それだけ。

 胸の奥で、張っていたものが、静かに緩む。

「急で、申し訳ありません」

 そう言うと、彼は首を振った。

「仕事ですから」

 淡々とした言葉なのに、
 思っていた以上に、心に残った。