Bar Afterで静かにお酒を飲んだ数日後、
ひかりは何事もなかったように、いつもの日常に戻っていた。
その連絡が入ったのは、式の前日だった。
「神崎さん、明日の披露宴ですが……」
式場の運営スタッフからの電話だった。
「併設バーのスタッフが、急きょ入院になりまして」
電話越しの声は、抑えているつもりでも、どこか焦っている。
「代わりの方を、手配できなくて……」
私は一度だけ、深く息を吸った。
「わかりました。こちらで対応します」
返事は、いつも通りだった。
感情を乗せる必要はない。
必要なのは、段取りと判断だけ。
電話を切ってから、進行表を開く。
変更点を確認し、代替案を探す。
——バー。
披露宴の流れの中で、
それは“なくても式は成立する”部分だ。
けれど、あってこそ完成する空気もある。
時計を見る。
もう、迷っている時間はなかった。
私は上着を手に取り、式場を出た。
