それから、私は、時々そこへ通うようになった。
決まった曜日でも、決まった時間でもない。
仕事が少しだけ早く終わった夜。
理由が特にない日。
月に二度くらい。
Bar Afterの扉を押すと、
いつもと同じ音がして、
同じ匂いがして、
同じ席が、空いている。
私は、何も言わずにそこへ座る。
彼も、何も聞かない。
出てくるのは、だいたい同じグラス。
氷の音が、少しだけ高い。
一杯目を、ゆっくり飲む。
二杯目は、少しだけ早めに。
長居はしない。
時計を見て、
グラスを置いて、
「ごちそうさまでした」と言う。
名前は、言わない。
聞かれもしない。
それなのに、
扉を開ける前、
いつも背中に、視線を感じた。
振り返ることは、しない。
そのまま、夜に戻る。
——そんな関係が、静かに続いた。
回数を重ねるほど、
会話は増えないのに、
説明はいらなくなっていく。
それが、少しだけ、不思議で。
少しだけ、心地よかった。
