グラスを置くと、氷が小さく音を立てた。
名前を知ったばかりのそのお酒を、もう一度見つめる。
アフターグロウ。
祝福のあとに残る、余韻。
しばらくして、彼がこちらに視線を向けた。
「……お仕事、落ち着きましたか」
先ほどより、ほんの少しだけ柔らかい声。
「いえ、相変わらずです」
そう答えてから、少しだけ考えて言い足す。
「でも、今日は早く終わって」
「そうですか」
それ以上、踏み込まない。
ただ、私のグラスが空きかけているのを見て、
さりげなく水を用意する。
その仕草に、胸の奥が静かにほどけていく。
「結婚式場って、忙しいですよね」
確認するというより、
私の状況を、そのまま言葉にしたような声。
「……ええ」
短い返事。
「でも、嫌いではないんです」
自分でも意外なほど、素直な言葉だった。
彼は少しだけ、目を細める。
「それなら、よかった」
その一言が、
慰めでも、励ましでもなくて。
ただ事実を受け取ってくれた気がして、
私はまた、グラスを手に取った。
それ以上、言葉は交わさないまま、
ゆっくりと時間が流れる。
グラスが空になるころ、
私はそっと席を立った。
「ごちそうさまでした」
「こちらこそ」
短いやり取り。
会計を済ませ、扉に向かう。
振り返ることはしなかった。
それでも、背中に向けられた視線だけは、
なぜか、わかってしまった。
夜の空気は、来たときよりも、少しだけ冷たい。
