彼は、無駄のない動きでグラスを仕上げ、
私の前に、そっと置いた。
「どうぞ」
淡い色の液体が、店の灯りを映す。
前と同じ。
グラスを手に取り、一口含む。
……やっぱり。
静かな甘さのあとに、ほんの少しの苦味。
強くないのに、芯がある。
私はグラスを置いて、小さく息をついた。
「……このお酒、好きです」
独り言みたいな声だった。
彼は一瞬だけ、目を伏せる。
「そう言ってもらえると、よかったです」
そう言ってから、
カウンターの内側で、グラスに視線を落とす。
「これは――」
ほんの少し、間を置いて。
「“アフターグロウ”です」
聞き慣れない名前。
でも、不思議と、この場所に合っていた。
「祝福のあとに、残る余韻、という意味で」
淡々とした説明なのに、
胸の奥に、静かに響く。
私はもう一度、グラスを見る。
「……覚えやすいですね」
そう言いながら、
本当は、名前よりも別のものを覚えてしまった気がした。
