その日は、珍しく、仕事が早く終わった。
理由は特別なことじゃない。
式が一件だけで、トラブルもなかった、それだけ。
帰り支度を終えて、外に出ると、夜の空気が少しだけやわらかい。
その拍子に、肩にかけたバッグが、少し揺れた。
中で、紙が擦れるような、小さな感触。
気になって、足を止める。
ファスナーを開けると、
白いハンカチが、折り目を保ったまま入っていた。
花びらと、名刺。
その二つを挟むために使っているもの。
そっと開くと、
一枚の花びらが、形を崩さずに残っている。
その下にある名刺を、指先で裏返し、
印刷されていた名前を、声に出さずに追う。
——相沢 直《なお》。
声には出さない。
けれど、その名前は、確かに胸に落ちた。
ハンカチを元に戻し、バッグを閉じる。
歩き出すと、自然と足は、あの通りへ向かっていた。
