チャペルの扉が閉まる音を聞いて、ようやく深く息を吐いた。
白いドレスの裾が消えていくのを見届けてから、私は手元のタブレットを閉じる。
「もう大丈夫です。挙式、すごくきれいでしたよ。
あとは、楽しんでください」
さっきまで震えていた新婦の手を、何度も包み込むようにそう言った。
泣きそうな顔をしていた彼女は、最後にはちゃんと笑ってくれた。
——その笑顔を見るたびに思う。
私は、この瞬間のためにここにいるのだと。
控室では、スタッフが慌ただしく行き交っている。
ブーケの位置、音響、進行。
全部、頭に入っている。
何百回も繰り返してきた、いつも通りの仕事。
「神崎さん、本当にありがとうございます。
直前まで不安で…でも、あなたに相談してよかった」
新婦はそう言って、私の手を強く握った。
その左手には、眩しい指輪。
私は触れないように、視線だけを落とした。
「そう言ってもらえて、よかったです。大切な一日を、見届けられて。」
口にした言葉は迷いがないのに、胸の奥だけが少しだけ冷える。
祝福の言葉を並べるほど、自分の中の何かが遠ざかっていく感覚。
チャペルの外では、拍手と音楽が重なり合っていた。
幸せの音は、いつもこんなふうに大きい。
——結婚は、きっと素敵なものだ。
少なくとも、そう信じている人たちにとっては。
私はその輪の外側で、スケジュールを確認する。
次の進行まで、あと十分。
今夜は、仕事帰りに一人で一杯といこう。
その前に、まだやるべきことが残っている。
誰にも見せない疲れを、グラス一杯に沈めるために。
まだ私は知らない。
祝福する側でいることを、やめたいと思う日が来るなんて。
