静かなる、恋の包囲網

駅から離れ住宅街の中を歩きながら、塔子は自宅アパートへと向かっていた。
深夜とはいえ歩けない距離でもないし、道に迷う場所でもない。
しかし、塔子の足取りは少しずつ早くなっていった。

―――やだ、誰かついてくる。

少し後ろから一定の距離を保ちながらついてくる足音。
そのことに恐怖を感じて、塔子は小走りになる。
この道の突き当たりを曲がって坂を下れば、自宅アパートは見えてくる。
距離にすればまだ数100メートルはあるが、さすがに今立ち止まり振り返る勇気はない。
塔子は恐怖心と戦いながら、ただ足を動かした。
もちろんお酒の回った状態で体力も限界だが、それでも必死に前へと進んでいた。

「あっ」

その時、路肩の小さな段差につまずき、勢いに任せて体が前に倒れ込むのと同時に持っていたカバンがアスファルトに落ちた。
塔子はこのまま自分の体も倒れ込むものと想像した。
しかし、倒れ込んだはずの体が柔らかい何かに包み込まれていった。