静かなる、恋の包囲網

その後、専務の乾杯で始まったタカミヤホールディングスの新年会は、思いのほか和気あいあいとしていて、賑やかな食事会のような雰囲気だった。

「田所さんと飲むのは初めてだね」
「そ、そうですね。あまりお酒が得意ではないものですから」

取締役からビールを注いでもらいながら、塔子もにこやかに対応する。

「へー、そうなんだ」

しかし、雄平から聞こえてきた声に反応し、塔子は振り向いた。
そこにあったのは、いたずらっぽくにっこりと笑った雄平の顔。
それはきっと、アルバイト先であるバーで会ったときのことを思い出してのものだろう。

「本当にお酒は苦手なんです」
「じゃあ無理して誘わないようにしないとな」
「お願いします」

クラブでホステスのアルバイトをしながらお酒が苦手だなんて主張するのはおかしな話だと思う。
おそらく雄平もそのことが言いたかったのだろう。
しかし本当に塔子はお酒が得意ではない。
それに雄平との約束もあり、今はクラブのバイトにも行っていない。
もちろん「来てくれ」と誘われてもいるし、しばらく休んでもいいからと言われ席だけは残しているが、様子を見てやめようと思っているところだ。