静かなる、恋の包囲網

高尾取締役との面談が一時間ほどで終わり、会社に戻るために用意された車の中でも、雄平はどこか元気がないように見えた。

「子どもの頃、俺が親父と会うのは年に数回だけだった」

――え?
ぼそりとつぶやかれた言葉に、塔子は驚いて雄平を見た。
塔子自身は、友達と遊ぶより図書館で本を読むのが好きな子どもだったせいか、テレビやゴシップに興味がないまま大人になった。
自分の勤めるタカミヤホールディングスが大企業で、旧華族である神林家が起業した会社だとは知っていても、大学時代からの憧れだった雄平が神林家の直系だということも、最近まで知らなかった。
当然、雄平の家庭環境まで知るはずもない。

「神林家の人間として、何不自由なく育ててもらったことは恩に感じているが……父親に愛された記憶はない」

その言葉に、雄平が過ごした寂しい幼少期を少しだけ垣間見た気がした。
そして、どこか投げやりに放たれたその言葉が、塔子の胸に引っかかった。

「でも……世の中には、いないほうがいいのにと思うような、憎しみの対象にしかならない父親もいますから……」

塔子にしては珍しく、感情がそのまま言葉になってしまった。
雄平が家族に対して複雑な思いを抱えていると気づきつつも、塔子自身にも思うところがあり、気持ちを抑えられなかった。

「そうだな。愚痴ってしまったようで、すまない」
「いえ、私こそ……すみません」

それきり、二人は無言になった。
その沈黙が苦痛というわけではない。
ただ、いつも完璧な御曹司として振る舞う雄平の心の奥にある孤独に触れてしまったようで、塔子の心は静かにざわついていた。