静かなる、恋の包囲網

「今回の件では、健康被害を出さないことが一番重要だと思っています。そのためには手段は選びません。ただ、長い時間と労力をかけて進めてきた事業ですので、できることなら形にしたいんです。今回のトラブルで、今までこの商品に携わってきた人たちの努力を無駄にしてしまうことだけは避けたいんです」

非常に穏やかな口調で、しかしはっきりと雄平は思いを述べた。

「そうだね。確かに良い商品だ。今回、搬送の過程で不手際があり大量の不良品が出てしまったが……」

どこか悔しそうに、高尾取締役も言葉を濁す。

「今回の件はこちらに責任があります。商品の回収はもちろん、出てしまった損失についてもすべて当社で保証する覚悟です。しかし、商品自体は素晴らしいんです。もう一度だけ、チャンスをいただけませんか?」

雄平は立ち上がり、深く頭を下げた。
その行動に驚きながらも、塔子もつられて立ち上がる。
見た目も良く、仕事もできる大企業の御曹司。
いつも堂々としていて弱みなど見せない雄平が頭を下げ続けている姿に、塔子は胸の奥が痛んだ。

「やめてくれよ。雄平くんに頭なんか下げられたら断れないじゃないか。それに、今回のことはうちにも責任がある。どうやらコストを削減しようと画策し、流通コストぎりぎりまで削った上に、納期でも無理を言ったようだ。すまなかった」

そう言うと、高尾取締役は立ち上がり、雄平の肩をぽんと叩いた。
どうやら今回のトラブルは、雄平と高尾取締役のトップダウンで話がつくらしい。
損失額は小さくはないが、もう一度ビジネスをするチャンスをもらうことができるようだ。