静かなる、恋の包囲網

エレベーターで上層階まで上がり、重厚感のある調度で揃えられたフロアを歩いて案内されたのは、「高尾取締役」と書かれた部屋だった。
そこで出迎えてくれたのは、五十代後半に見える、割腹の良い男性。
その風貌から、四ツ星物産の重役なのだろうと塔子にも想像できた。

「雄平くん、いらっしゃい。わざわざ申し訳ないね」
「久しぶりです、高尾さん。このたびはご迷惑をおかけしました」

笑顔の男性に対し、雄平は申し訳なさそうに頭を下げた。
そういえば、今朝聞いたトラブルのあった取引先は四ツ星物産の関連会社だった。
――そうか、それで雄平はここに来たのか。
塔子はようやく状況を理解した。

「こちらは新しい秘書さんかな?」

しばらくして、部屋の入り口で二人のやりとりを見ていた塔子に、高尾取締役の視線が向けられた。

「はい、神林の秘書の田所と申します」
「そう、田所さん。私は四ツ星物産の取締役をしています高尾といいます。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

優しく微笑む高尾取締役に、塔子も少しだけ頬を緩めた。