静かなる、恋の包囲網

急いで着替えを済ませ、店の外へ出ると副社長が待っていた。

「近くのカフェでいいか」
「はい」

さすがに深夜男性のマンションに行くことに抵抗があり断った。
では近くのカフェでと言ってもらえるのは、雄平なりの譲歩なのだろう。
しかし、今の状況が変わったわけではない。
塔子はこの時、雄平に自分の事情を告白する覚悟をしていた。

「なるほど、弟のためにね」
「はい」

塔子と海斗は天外孤独の身。
頼る親戚もいない以上、2人で助け合って生活していくしかなかった。

「医学部の学費って高いんだろう」
「そうですね、弟は国立大学に行っているので比較的お金はかからないと思いますが、教科
書や参考書代だけでもかなりの金額になります」
「そうか、それをみんな君が出しているのか」

うんうんとうなずきながら、雄平は何か考え込んでいるようだ。
この時塔子は、雄平が自分たちの境遇に同情し、このまま黙っていてくれるのではないかと期待を抱いた。
しかし、それは期待でしかなかった。