静かなる、恋の包囲網

再度、家中の戸締りを確認し、塔子は投函されていた紙を見つめた。
誰が何の目的でこんなものを置いたのか。
確かに今は社内で女子社員の標的になっているが、普段から目立った行動を好む塔子ではないし、人の恨みを買う覚えもない。
逆恨みなのか、ストーカーなのかわからないが、塔子はただただ恐怖しか感じなかった。
そして、友達の少ない塔子は、こんな時に頼れる友人もいない。

「いっそのこと、引っ越しをしようかしら」

来年の春になると、医大に通う海斗は大学を卒業し研修医となる。
そうなれば、自分1人食べていくくらいのお給料をもらえるはずだし、塔子が仕送りをする必要もなくなる。
無理をすれば、どこかに引っ越すことだってできなくはない。

―――でもなぁ…。

質素倹約を心がけて生きてきた塔子にとって、引っ越しのための費用を捻出することは一大決心である。

「どちらにしても、仕事が落ち着いてからよね」

新しく配属された秘書課での勤務がうまくこなせるかどうかなんてわかったものではないし、今急いで引っ越しの準備をしても仕事を辞めるようなことになれば生活は行き詰まってしまう。
やはり、今は耐えるしかなさそうだ。
塔子は1人考えているうちに、睡魔に襲われ、気がつけば眠ってしまっていた。