静かなる、恋の包囲網

行きつけのおでん屋で1時間ほど飲んで、塔子は杏と別れアパートに向かった。
なくしてしまった鍵の交換は昼間のうちに管理会社に連絡を取り、実費負担にはなるものの既に交換してもらっている。

「ただいま」

誰もいるはずのない真っ暗な部屋に入り、まずは電気をつけた。

―――そういえば、彼はどうしているかしら。

なぜだろう。暗闇は苦手だと言った雄平の言葉が頭をよぎる。
昨日の夜は本当に夢のような時間だった。
贅を尽くした部屋も、宝石箱をひっくり返したような夜景も、いまだにまぶたの裏に焼き付いている。

―――今日はグラタンにしようかしら。

昨日の夜食べたグラタンを思い出し、そういえば冷蔵庫に作り置きがあったなとひらめいた。
その時、

「嘘」

郵便受けから取り出したチラシの中に、真っ赤な文字で『いつも見ているよ』と書かれた紙が目に入った。
当然塔子に覚えのないものだが、気味が悪くて足がすくんだ。