静かなる、恋の包囲網

「人事発表は見たね?」
「はい。でも、どういうことでしょうか」

大学卒業後、塔子は総務課一筋で5年働いてきた。
目の前の総務部長は、入社当時の課長で塔子をよく知る人物だ。

「どうしても君が欲しいと、上層部から直接の要望でね」
「そんな……」

秘書課に呼ばれるほど優秀だとは思わないし、美貌で目を引くタイプでもない。
控えめで目立たない自分が副社長秘書に抜擢される理由が分からなかった。

「事前に知らせたかったんだが、私も昨日いきなり聞かされてね」

部長は申し訳なさそうに頭を下げた。
つまり、これは決定事項であり、塔子は従うしかないということだ。
状況を理解する間もなく、塔子は会社の人事に従うしかないのだと悟った。