初恋の人がいきなり上司で、訳あり同居生活

「まんまんまんまん」

1歳を過ぎて喃語が出始めた息子が、伝い歩きをしながらテーブルの上に手を伸ばす。

「何が欲しいのかしら?」

周囲を見回し、杏がおもちゃを渡そうとするが、息子はプイと顔をそむけた。

「きっと、これが欲しいんだな」

ちょうどテーブルの上に置いていたメロンがあり、それを雄平が1口だけ息子の口に入れた。

「あぁ、あぁ」
嬉しそうに両手を叩く息子。

その光景を見つめながら、塔子と杏は視線を合わせ、くすりと笑った。

「塔子さん、幸せね」

雄平と息子の微笑ましいやりとりを見つめていた塔子に、杏が小さな声で話しかけた。

「ええ、とっても」

塔子も雄平も、いわゆる“普通の家庭”を知らない。
そのことで親になることへの不安を感じていた。
しかし、親になることは教えられるものでも習うものでもなく、本能なのだと今は思える。
息子を慈しみ、愛情深く接している雄平を見ながら、塔子はこの人と結婚してよかったと心から感じていた。


fin