静かなる、恋の包囲網

「あれ、塔子さん?」

コーヒーを淹れていた杏が、不思議そうに塔子の周囲をクンクンと嗅いだ。
塔子も思わず背後を振り返る。

「もしかして、朝帰りですか?」
「え、どうして?」

確かに塔子は昨日と同じ服装のまま出社した。
昨夜、アパートの鍵を紛失し雄平のマンションに泊まったため、着替えはなかった。
ただ、営業職と係長以上を除く女子社員は全員制服のため、誰にも気づかれないと思っていた。

「だって、いつもとシャンプーの匂いが違います」
「あぁ……」

そういうことか。
若い女の子の嗅覚は侮れない、と塔子は必死に言い訳を探した。