帰り道、君と

 高校二年生の春。制服の袖が、少しだけ軽くなった気がする季節だ。

 新しい教科書を鞄に入れながら、私――花宮里香は、通学路を一人歩いていく。

 放課後、駅前行きのバス停に向かう途中で、私は足を緩める。
 この時間、この場所で、ほぼ決まって会う人がいるから。

「……あ、花宮」

 案の定だった。
 バス停の少し手前、信号の影で立ち止まっていた彼と、目が合う。
 少し色素の薄い髪に、切長の目。
 幼馴染の星野陸だ。

 星野と目が合ったのは、ほんの一瞬。
 すぐにお互い視線を逸らした。
 話すことは、特にない。
 挨拶もしない。

 それなのに、私は立ち止まらず、彼の横を通り過ぎることもできなくて――

 気づけば、いつも通り隣を歩いている。

「今日、帰り早いんだな」
「まあね……。私、部活入ってないし」

 一緒に帰る理由はわからない。
 示し合わせた覚えもない。

 ただ、そうするのが当たり前みたいに、私たちは並んで歩き出す。

 小学校の低学年までは、よく一緒に遊んでいた。

「りく君とりかちゃんって名前似てるよね」
「きょうだいみたい!」

 ある日、星野と一緒にいた時、同級生たちに名前が似ていることをからかわれた。
 それが、いつの間にか恥ずかしくなって、距離ができた。

 今は、名前で呼ぶこともない。
 苗字でさえ、たまにしか呼ばない。

 それでも――。
 バス停までのこの短い帰り道だけは、なぜか一人にならない。

 いつも、会ってからすぐに会話が消える。
 楽しいことも、悲しいことも、星野には何も言わない。

 星野だって、私に何も話してこない。
 でも、沈黙が苦しいほどではない。

 今日も、星野と帰る。
 それが、私と彼にとっての日常の一部だから。