タルトと紅茶が運ばれてくる。
「お待たせしました」
彼はいつも通りの距離で、
でもさっきより少しだけ、柔らかい声だった。
「ありがとうございます」
そう言うと、
彼は一瞬だけこちらを見て言った。
「この時間、静かで好きなんです」
それは、
誰にでも言っている言葉なのかもしれない。
それでも。
(今のは……)
フォークを持つ手が、少しだけ止まる。
名前を知って、
踏み込まない人だと知って。
それでも、
こうして少しずつ、言葉が増えていく。
レモンの酸味が、口の中に広がった。
さっぱりしているのに、
あとからやさしい甘さが残る。
また一つ、
静かに重なった気がした。
