次にカフェへ行ったのは、少しだけ遅い時間だった。
「今日は空いてるね」
美琴ちゃんが言う。
「ほんとだ」
店内は静かで、
いつもより落ち着いた空気が流れていた。
席に座って、メニューを見る。
日替わりケーキはレモンタルト。
黄色が明るくて、なんとなく今の気分に合っている気がした。
「すみません」
顔を上げると、あの人が立っていた。
「ご注文、決まりましたか?」
「レモンタルトと、紅茶でお願いします」
そう言うと、彼はメモを取りながら、少しだけ笑った。
「今日は、遅めなんですね」
え――?
一瞬、言葉に詰まる。
覚えられている、という事実と、
それを自然に口にされたことに、同時に戸惑ってしまう。
(え、いつも来てる人、みんな覚えてるの……?
それとも、たまたま……?)
「……へ?! ……あっ、はい……」
慌てて頷いてから、付け足すように言った。
「ちょ、ちょっとだけ……」
彼はそれ以上、何も言わずに小さく笑って、
いつも通りの距離でカウンターへ戻っていった。
「ありがとうございます。すぐお持ちしますね」
そう言って、彼はカウンターへ戻っていった。
「今の、個人的じゃなかった?」
美琴ちゃんが小さく言う。
「え?」
「時間のこと、聞いてきたでしょ」
「……たまたまだよ」
そう答えながらも、
さっきの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
『今日は遅めなんですね』
